「寒いでしょ。入って入って」
小走りでやってきた咲桜は、昨日の朝、逢ったままの元気な様子だ。
夜々子のことを心配していると聞いたけど……。
「あら、流夜さん」
ハイネックのニットにロングスカートの夜々子が玄関に姿を見せた。
「こんばんは。お邪魔します」
「邪魔ではないでしょう? 流夜さんが在義兄さんの息子ってことは、わたしにとっても同じ立場になるのだし」
「……なんか怖いですね」
あの夜々子に急にそんな態度に出られると。
「少しは流夜さんのおかげですよ? 住まいを隣にしてくれるとか、あなたらしくない心遣いが嬉しくて少しは柔らかい対応しようかなー、と思ったんですけど。……必要なかったみたいね?」
「………」
根本、変わってねえ。
「どちらでもいいですよ。俺に優しいとか、それこそ朝間先生らしくない」
「夜々子」
「………」
……咲桜が夜々子の影響を多分に受けているのはわかっていたが、親子三人から同じ攻撃を受けるとは。
もう折れるしかないよな。
「……夜々子さん、は、学校はどうされるんですか?」
「四月から産休ですけど、復帰するつもりですよ」
「そうですか。……咲桜? どうした」
玄関先で夜々子と話していると、咲桜が腕を引いて来た。
「ちょっと、話が」
「うん?」
「こっち来て。あ、夜々さん、調子悪くなったらすぐ呼んでね?」
「はーい。ごゆっくり」
咲桜に腕を引かれて階段を上る。
夜々子は「ご飯の用意しておくわねー」と手を振って見送って来た。
咲桜の部屋に入って、どうぞとラグに座らされた。
「昨日はすみませんでしたっ」
土下座された。



