咲桜と結婚の約束をして、咲桜が流夜のアパートへ居を移してから三日目。

昨日の夜、咲桜は華取の家に行ったまま帰ってこなかった。

華取家の隣の家へは、四月になる前に移れることが決まっていて、それまでは本当に咲桜と二人きり(華取家やその隣家では夜々子や箏子の襲撃が予想されるので)だと思っていたら、咲桜自身が伏兵だった。

おかげで気落ちした流夜、仕事はさっさと片付けて落ち込むことにした。

在義は昼休憩を見計らって来ていた。

「いや、そこでさっさと仕事を片付けるって思考になるあたりがあまり一般じゃないんだよねえ。仕事も手につかないくらい落ち込みなよ」

普通に落ち込んだらどうだ。在義は呆れ混じりだ。

助言されたので、取りあえず机に突っ伏してみた。

「……咲桜は、今日は帰ってくるでしょうか……」

「……ごめん、言い切れない……」

在義の声が揺れている。

「それほど……朝間先生、体調悪いんですか?」

「悪阻(つわり)ね。桃の方がひどかったんだけど、咲桜は心配が止まらないみたいだ」

「……女性って大変ですね」

「だから夫がいるんだろう」

「……ですね」

在義の説得力の強さ。

自分はここまでになれるだろうか。

「咲桜、まだこっちみたいだから、流夜くんも今日はうちに直接来たらどうだ?」

「それは……お邪魔じゃないですか? 朝間先生も大変なんでしょう?」

「夜々子」

「………」

在義に、咲桜と同じ瞳で睨まれた。

「咲桜から聞いてるよ? 『朝間先生』はもう終わってもいいだろう?」

……この親子、本当に似ていやがる。

「馴染むまでは少しくらい見逃してください」