咲桜は、これ好機と自分の話に持って行く。
今日はずっと流夜ペースで悔しかったのだ。
「だったらさ、『朝間先生』って呼ぶのは余所余所しくない?」
「あの人には近づきたくないんだが……」
……本当にここ、天敵だね。
「そう言わずに。『夜々子母さん』って呼んでみない?」
「断る。なんか嫌だ」
「ええ~。せっかくのお母さんなのに……」
「咲桜の母親とは認めるけど、俺のことは迫害しかしないぞ、あの人は」
「それは色々不安定な関係だったからじゃないの? 前は教師と生徒だったし」
「……それはあの人には関係ないと思う」
流夜が鬱な様子でぽつりと言った。
「う~ん? じゃあ、『夜々子さん』?」
「……譲歩してそのくらいだな」
「がんばって」
「……あんまりがんばりたくないな」
夜々子の件では、本当に逃げ腰だなあ。
「よかった」
「……何が」
また咲桜が要求を突きつけると思っているのか、流夜は眉根を寄せている。
「流夜くんに家族が増えるの、嬉しいなあって」
「………」
私が増やしてあげられるかは、わからない。だから、嬉しい。……少し、くやしい。
「咲桜のおかげだろ」
「へ?」
「咲桜がいなければ、家族も望むものじゃなかった。そういう存在に、憧れとかなかったから」
「……そ、そっか」
反撃された。今日、何敗目だろう。
「あ、そうだ。絆先輩と降渡さんが来月式挙げるって聞いた?」
「ああ。聞いてる。降渡に出ろって言われてる。咲桜は……」
「私も出るよ。絆先輩の同僚って、今のとこ私と涼花さんだけだから」
桜台法律事務所は、所長の桜台涼花と、諏訪山絆でやっている。
咲桜は四月からそこで働く。