『……血縁上、の……父親に逢いたいとかは、思わないの?』
『思わないね。母様を捨てた最低の人間だ。更に、後継者がいることがバレれば歓迎される家だ』
『歓迎?』
『妻に子どもがいない。そして、跡取りがほしい家柄。そういうところを困らせるには私のことは知られないのが一番。簡単な復讐だよ。……ヘンかな?』
親に逢いたいと思わないことが。
見つめられ、暗にそう問われて、咲桜は膝の上で拳を握った。
『……ううん』
そうだ。
『ううん。ふつう、だと思う』
だって自分も、斎月と似ているから。
斎月は唇の端を歪めた。
『さっすが咲桜姉様。流夜兄さんの恋人』
斎月にそう称されることが、とても嬉しかった。
最高の褒め言葉だよ。
「咲桜? 斎月に変なことでも吹き込まれたのか?」
「そんなんじゃないよ。……色んな境遇があるなーって、話した」
「………」
咲桜の言わんとするところがわかったのか、流夜は返事をしなかった。
「運命は、自分で決めていいって、言われたね」
「……ああ」
「だからね、斎月とも、運命ってことにしておいて。私も、流夜くんも、斎月に出逢ったのは」
「え……あれはそういう括りに入れたくないんだが……」
「いいから。……運命だったら、斎月が流夜くんに近くても、ゆるせるから。……お願いします」
必然として、大和斎月はこの人と出逢ったのだと、割り切らせてほしい。
じゃないと――見えないほど高い、どれほどの差の前に、泣いてしまうかわからないから。
いくら嫉妬するのがバカバカしい相手でも、男扱いでも、咲桜にとって斎月は『女の子』だ。
「……わかった。そうする」
「うん」
その言葉一つで、一喜一憂してしまう心だから。