「取りあえず今日、在義さんに話に行って、からだな」
「……うん」
「俺としてはすぐに咲桜と暮らしたいんだけど?」
「暮らす……?」
「まだ早いか? それとも待たせ過ぎた――」
「よろしくお願いします」
咲桜が軽く頭を下げた。流夜からふっと笑いがこぼれる。
前にもあったかも、こんなやり取り。
「約束、ちゃんと憶えてたか?」
「………」
あ。
咲桜はばっと両手で顔を覆った。
「確かに言ったけど! あんな公衆の面前で攫わなくたっていいじゃん! ってかなんでキスまでするの!」
初めて絆と逢った日、咲桜が流夜に言ったのだ。「攫ってくださいね……?」と。それが叶えられた。
「もうみんなと顔合わせらんないし! 流夜くんだってばれてるし!」
「そうか?」
大して気にしていない様子の流夜に咲桜が噛み付く。
「先生と付き合ってましたなんてゆるされないでしょう!」
「元先生と結婚しました、でいんじゃないのか?」
「そうだけど! 前提! 前提条件があるでしょ!」
「あんくらいしねえと咲桜に懸想してる輩追い払えねえだろ」
「……はあ?」
流夜を手の隙間から胡乱な瞳で睨んでやった。
それでも焦った様子のひとつもないのが憎たらしい。
自分はこんなに翻弄されてばかりなのに。
流夜が咲桜の、結っていない髪をすくった。
「……綺麗だな」
「………なにがですか」
今度はどんな手で来る気だ。流夜はさらりとした、柔らかい眼差しをする。
「ここまで美しくなる咲桜のこと、ずっと見ていたかったな」
「………だから勝手にいなくなった人が言うんじゃない」
じと目、復活。ほだされてなんかやらなかった。
……若干、ほんの少しだけ心音が爆破しそうになったのは隠せたはずだ! 自信はないけど!
「…………そんなこと言うなら一人でいなくならないでよ。せめて連絡ぐらいつかせてよ」
咲桜の言葉が泣き言めいてくる。
髪を撫でる手は止まらない。
「……不必要な二年じゃ、なかったって思うか?」
「………必要だったんでしょ? お互いがいない日常が」
咲桜が不貞腐れて言うと、今度は頭に手が乗った。