「実はね、一つはいいなあっていうの、あるの」

「なに? もう女の子ってわかってるんだよね?」

「まだ秘密。女の子なのは確定してるわ。予定日は八月だから、もしかしたら咲桜ちゃんと同じになるかもしれないわね」

「うう……もう泣けてきた……。夜々さん、絶対に無理しちゃダメだからね。夜々さんも赤ちゃんも、元気でいてよ」

「うん、ありがとう。……でも淋しいわ。咲桜ちゃんもすぐお嫁にいっちゃうんだもの」

ふっと夜々子の顔に影が差したのを見止めた箏子は、そのまま咲桜へ視線を滑らせた。

自分との仲は――主に箏子の所為だが――ギスギスしてはいたが、娘と咲桜は姉妹のように仲良しだった。

夜々子は、在義の妻としての桃子もすきでいたから。

その夜々子からそんなことを言われたら、まさかこの娘、自分の結婚を――

「それはしょうがないよ。私は流夜くんと一緒にいたいんだもん。本当に、結婚とか出来なくてもいいから一緒にいたくてこの二年、頑張ったんだよ」

……邪推し過ぎた。

この娘も、変われば変わるものだ。

在義と夜々子の愛情に応えるだけに生きていたみたいだったのに。

……こうなってくると、向こうで在義と何やら話し込んでいるヤツに喧嘩を売りたくなる。

この子はわたくしの孫になる子なのに。

……以前にやり返された恨みもあるので、喧嘩は売りたいが負けるのも見えているので売りたくない。

なんと言うか……ここまで苦手な人種には初めて出逢った。

なんで咲桜があんな不安全な人間に惚れたのかがわからない箏子だ。

不安全で不安定で不完全。

不完全は当然のこととしても、ここまで輪郭の摑めない人間も初めてだ。

在義の仕事柄、そういった人間たちのことも少しは知っているつもりだったけど……ほんものはここまで、なのか。

しかもそれが在義側というのが衝撃だ。

在義、お前なんて人を娘に近づけたの。

咲桜と流夜の見合いの折には片棒を担いでしまっている箏子なので大きい声では言えないし、実際咲桜の成長は流夜と出逢ってからの方が目を瞠るものでもあるし、在義と夜々子のためだけに生きることをやめられたのもあの人の所為なんだろうし――あれ? 咲桜にはいい影響しか与えていない? 

ちょっと待ちなさい、自分。わたくしは今、あの青年をけなすことを考えていたはず。それがなんで褒めている。

……不安全で不安定で不完全な神宮流夜は、咲桜を成長させている? 

……在義め、そういうところ、見越していましたね?

まだ浮き沈みを繰り返す二人を睨んでみた。

中学生みたいな仕返しだった。

お前が反対しないなら、わたくしから言うことないですが? 

……咲桜のために、職を賭して箏子に挑んで来た青年だ。咲桜を大事にすることは必定。