いくら咲桜が睨んでも、百戦錬磨の在義にはノーダメージだった。

これが「いじめたら口きかない」とか言い出したら慌てふためくんだけどなあ、と思いながら流夜は眺めていた。

しかしどんな約束をしていたんだろう。それについては聞いていない。

「あっ、箏子師匠呼んできてもいい? ご飯たくさん作ったし」

「そうだね。流夜くんとのことも、二人から離した方がいいだろうね」

「………」

二年前、箏子に引導を渡したようなものな流夜、在義の提案に一瞬困った。き、気まずい……。

「流夜くん、行こ? 大丈夫、師匠、流夜くんのこと気に入ってるから」

「あ、ああ」

咲桜に手を出されれば、反射的に取ってしまう流夜だった。

箏子には、まず睨まれた。

何故か道場に通されて、正座して相対した。

これからシバキ倒されるのだろうか。

「……夜々子と在義の件は聞いています。反対などは致しません。子もいるようですし。して、咲桜とあなたはなんでしょう?」

流夜は背筋をのばす。

「咲桜さんとの結婚を、認めていただきたく参上いたしました」

「わかりました。認めましょう」

「………え?」

「なんです? 反対でもされたかったんですか?」

「いえ……拍子抜けしてしまったと言いますか……。俺は以前、貴女を嵌めたようなもので

「嵌められてなどおりません。あれはわたくしがノッてあげただけです」

流夜、キリッと睨まれた。

ああ……自尊心のお高い方なのだな。

そういう体(てい)で自身がよろしいのなら、まあわざわざ気を悪くさせることもないだろう。

在義と夜々子が結婚すれば、咲桜にとっては祖母になる人だ。

流夜も別にそこ、気にしてないし。

「失礼致しました。撤回致します。在義さんと朝間先生が待っていらっしゃるので、一緒に華取の家に来ていただけないでしょうか。咲桜が張り切って、たくさん夕飯を用意してくれたので」

「……そういうことなら、呼ばれないわけには参りませんね。行きましょう」

うん、いちいち面倒くさいお人だ。

咲桜が手を差し出すと、箏子は当たり前のようにそれを取って立ち上がった。

手を繋いだまま、二人は道場を出て行く。

……こちらも大分仲がよろしいようだな。

「…………」