笑満と遙音の賑やかな結婚式が終わって、今日はいつもより遅い時間だが、咲桜と流夜は自宅のリビングのソファでくつろいでいた。
咲桜を抱きかかえるように座るのが二人の定番だ。
来客のときも流夜はこうしようとするので、さすがにそれは咲桜が止めている。
「ねえ、流夜くん?」
「ん?」
身をよじって流夜を振り返った咲桜は、すぐに身体を戻した。
「なんでもない」
「俺に言えないことでも?」
少し不機嫌に聞こえる流夜の声。そのまま、後ろから強く抱きすくめられる。
「言えないなら、言わせるけど?」
「言うっ、言いますっ」
……流夜に実力行使に出られたら、咲桜は勝ち目がないことがわかってきた。
「で?」
「えーとね……」
咲桜はまた身をよじって、流夜と視線を絡ませた。
「生きてるの、楽しいなあって思った」
「――――」
「流夜くん、桃子母さんに言ってくれたでしょう? 生きてることを後悔させません、って。その、言葉通りになったよ」
「………」
流夜は無言で咲桜の頭を押さえるように抱きしめた。
「わっ、流夜くんっ?」
互い違いになっていて流夜の顔は見えない。
ただ、流夜は言葉せずに咲桜を抱きしめることがよくあるので、咲桜もいつものように流夜の背中へと腕を廻した。
こういうときの流夜は、本当に言葉に出来ない感情を持っているのだと感じる。
「私と、出逢ってくれてありがとう。……流夜くんがいてくれるから、私、いつも幸せだよ」
「………俺の方こそ」
腕の力が緩んで、身体が離れた。
流夜が咲桜の頬に手を当てて、優しい顔で見て来る。
「生まれてきてくれてありがとう、咲桜。俺も、幸せだ」
額同士を合わせて、唇を重ねた。