咲桜について流夜へ逢いに行ったことで、流夜を師事する遙音と再会できたのだ。
それまでだって、学内で先輩後輩として接する機会はあった。
でも、それは実っていなかった。
笑満は柔らかい笑みを見せた。
「そうだね。そしたら咲桜と先生――二人を引き合わせたマナさんには、あたしたちも感謝しなきゃだね」
「だね。今まで受けた被害を帳消しにしていいとか、神宮史上最大の感謝だよ、あれ」
「そんで今頃新しい被害が積み重ねってるんだろうね……」
「春芽さんだからしょうがないよ」
遙音は諦めた口調だった。
「あと、ごめんね? こんだけ仕事たまってて……」
遙音は机に積みあがった書類を見て、声のトーンが落ちた。
「神宮たちならこんなのすぐ片付けられるんだろうけど……」
自分たちの結婚式も前だというのに、こんだけ仕事積んでるって……。
意気消沈した遙音に、でも、と笑満が言った。
「あたしがすきなのは遙音くんだから、先生みたいになられても困るかな。あんな人、相手出来るのは咲桜だけだよ」
「……確かに神宮みたいにはなれないけど……。って言うかほんと咲桜はナニモノなんだ……。あの神宮があんななるなんて……」
遙音が、また頭を抱えてしまった。
笑満は苦笑するしかない。
笑満は教師としての流夜しか知らないから実感がわかないのだけど、昔――学生時代の流夜を知る人からすると、今の流夜、もとい、『咲桜の流夜』は別人なのだそう。
遙音が何回頭を抱えて、何回疑ったことか。
未だに疑っているし。
「運命っぽいの、感じちゃうよね」
笑満が言えば、遙音は「いや」と答えた。
「運命に逆らったんだよ、あいつらは」
「逆らった?」
「そ。敷かれていた運命を、いらないって拒絶して放り投げて、運命じゃなかったお互いを選んだ。でなきゃ、あいつらは今、一緒にいないと思う」
運命に、逆らった。
笑満はその言葉を、頭の中で反芻した。