「やっぱり遙音くんにとっての家族って、先生たちなんだね」

コトン、と軽い音を立てて、遙音の机にマグカップが置かれた。

「え? どうしたの、急に」

ソファで仕事中だった遙音が顔をあげると、笑満が微苦笑した。

「だって、親族席にいてほしいって思うくらいなんでしょ?」

「それは……あいつらは、正直どういう名前がつくかわからない。師匠とか、先輩とか、そういう感じ――だけじゃ、ないから」

「うん。その答えが、『家族』なんじゃないかなって、思ったよ」

遙音が書類をどかしてスペースを作ったので、笑満は遙音の隣に座った。

「あたしの傍には咲桜がいるからさ、家族に必ず血の繋がりがいるとは思わないできたから。あ、先生たちが家族なのが嫌ってわけじゃないよ? むしろ、遙音くんを独りにしないでいてくれた先生たちには、感謝してる」

「……うん。俺も、神宮が教師になってなきゃ、笑満ちゃんと逢うの、もっと遅かったかもしれない」

「先生と同じこと言ってるね」

「神宮と? あいつ何言ってたっけ?」

「ほら、結婚式のときにさ、先生がマナさんに言ってたでしょ? マナさんが仕組んでなかったら、咲桜に逢うのがもっと遅かったかもしれない、って」

「あ。……そういや言ってたね」

「でも――遅くなっても、あたしに『逢う』って思っててくれたんだ?」

「そりゃ――笑満ちゃんだし」

「でも、全然接触してくれなかったよね? あたし、忘れてるなら思い返させない方がいいかなって思ってた」

「忘れるわけないよ」

そっと、遙音が笑満の指先を握った。

ほどよい熱のある指先で繋がる。

「ずっと、大事にしてたんだ。思い出の中の笑満ちゃんでさえ、俺の支えだった。……笑満ちゃんが藤城に入学してきて、笑っててくれて、本当に嬉しかった。俺も、また、前みたいに一緒にいたいって思ってた。でも、俺の方こそ、笑満ちゃんに嫌なこと思い出させたら嫌だったから、近づかなかった。……神宮と咲桜が付き合わなきゃ、話すのも、もっと遅かったかもしれないね」