流夜は一つ、息を吐いた。

「怖いですよ。咲桜の父ですから」

「良いことですね」

「それはどうも」

「……戻らないんですか?」

まだ玄関にいる流夜に、小首を傾げる。

「今日は貴方が早上がりする日でしょう? また降りてくるの面倒ですから、鍵お預かりしていきますよ」

「おや、それはお気を遣わせてしまいましたね。妻の月命日だけは、どうにも」

「この前曾孫が生まれるってはしゃいでたのはどこのじいさんですか?」

「……やっぱり貴方、華取くんにシメられた方がいいですね」

「咲桜の関係で五、六回はシメられてるんで勘弁してください」

「……華取くんにそんだけシメられてもめげないんですか」

ついには呆れられた。

「咲桜がいますから」

流夜が出した掌に、金属音が響いた。

「神宮くん。いつも言ってますけど、このジジイの名前、使えるとこではとことんお使いなさい」

守衛室の扉を閉じ、鍵を閉めるために待っていた流夜に言った。

流夜は、ふっと笑う。

「まさか。やっと血なまぐさい現場から解放されたじいさんを引きずり戻すほど、非道でもないつもりですよ」

それでは、と鍵が締まったのを確認して、流夜は振り返る事なく戻って行った。