「貴方もご機嫌ですね」

城葉犯研の守衛を務めているのは、警察庁の長官だった人だ。

柔和で人のよさそうなシワの刻まれた面いっぱいに笑みを浮かべている。

「仕事中から嫁に逢えましたからね」

「いやあ、華取くんの言う通り、随分人間らしくなりましたね」

「そうですか? 貴方も機嫌よさそうですね。天下りでも潰したくなりましたか? 手伝いますよ」

「そういう悪ガキなとこは変わってませんねえ」

にこやかを崩さない面に、流夜は柳眉を潜めた。

「……狸ジジイって言ったの、まだ根に持ってるんですか」

「初対面の小学生に言われたのは衝撃でしたなあ。せっかく旧友に逢いに行ったのに」

「初対面から小学生のガキに『貴方』なんて声をかけるような怪しいおっさん、警戒していいでしょう。ましてや自分の祖父を解雇(クビに)したと知ってる人ですよ」

「わたしもびっくりしましたよ。猫柳くんに君たちくらいの子どもがいるとは知りませんでしたからねえ。七十のじいさんに逢いに行ったら、子どもが出てくるんですから」

「なにすらっとぼけてるんですか。龍さんが俺ら引き取ったことくらい知っていたでしょう」

「そう言えば貴方も、猫柳くんを『祖父』と呼ぶようになったんですねえ」

「……相変わらずはぐらかしますね」

「狸ジジイの年の功です」

優しい顔で言ってのける、この辺りが狸だと言うに。

「貴方は優しくなりましたねえ。前はもっと、ヒトを人として見ていなかった」

「……貴方を邪険にすると在義さんに怒られますからね」

流夜は苦いものを噛みながら言った。

「華取くんにですか?」

「一応、貴方がいたから在義さんは警察内に留まれたらしいですから?」

「華取くんは怖いですか?」