<やっぱり…親友っていい!>



 春休みの夕方、あたしは電車を降りるといつものユーフォリアに走った。

 和人は先に着いているとの連絡が入っている。

 慣れないヒールはやっぱり走りにくい。こんなことなら途中で着替えてくるべきだったと後悔しながら、お店の外階段を駆け上がった。

「間に合ったな。まだセーフだ」

「よかったぁ!」

「もう、無茶して。怪我でもしたらそれこそ結花ちゃんは自分を責めちゃうよ?」

「ですよね」

 菜都実さんが出してくれたお水を一気飲みしてしまう。

「もうすぐ着くって連絡あったよ。結花ちゃんも千佳ちゃんがそんな格好だと驚くだろうから、早く着替えちゃいな」

 菜都実さんには、ここで普段着に着替えてから結花と会うことを連絡しておいた。

 お店の奥の部屋を借りて、スーツから普段着に着替える。

 なぜって、本当ならこの日には何も予定を入れていなかったし、結花にも「この日は終日フリー」と答えてあったから。

 就職説明会が学校の別キャンパスで行われることを教わって、それに出てからお店に向かうことを決めたのが数日前。その変更は結花には伝えなかった。

 それを話せば、きっと結花のことだ。せっかくの今日の予定がキャンセルになってしまうかもしれない。

 今回は完全帰国だと聞いている。これからはいつでも会えることは分かっているけれど、空港から実家に戻る途中の最初のタイミングで顔を合わせておきたかったのはあたしの方だったから。


 あの夜が終わってから、あたしも焦らずにいろいろな情報を集めるようになった。一つの業界でなく、いろいろ目を向けてみると、あたしがやれそうな仕事はどこにでも潜んでいることも分かったし、逆にこの福祉分野はこれからの産業とあって人手不足だ。

 でも、簡単には決めないでいこう。和人を安心させられるように、それが今のあたしに出来る精一杯だし、彼もあたしの動きを理解してくれている。



「ただいま戻りました」

 お店のドアが開いて、二人の人影が入ってきた。

「お帰りなさい。お勤めお疲れさまでした」

 菜都実さんとご主人の保紀さんも出てきて、『先生』に声をかけた。

「結花、コート脱いじゃいなよ」

「うん」

 そのたった一声を聞いた瞬間、あたしの涙腺が堪えきれなくなって全開になった。

「結花ぁ!」

「ちぃちゃん、ただいまぁ」

 3年前と全然変わらなかった。もともとが同級生なのだから、歳も同じだし見た目も変わらないというのは当たり前だとは思う。

 でも、どこなんだろう。その空気というか何かが違う。結花の表面上の雰囲気そのものは全く変わっていない。それでもこの落ち着きは大学生のあたしとは比較にならないような気がした。

 外国で3年間を生活するというのは、時として人の人生すら変えてしまうだけの経験を得ることも可能な時間の流れだ。

 きっと、たくさんの苦労を重ねたんだろう。

 あの優しくて芯の強い結花に、さらに苦労をして得た人生経験が加わったら、本当にこの子はあたしが逆立ちをしても敵わないほどの女性になったのではないか。

「もう、行かないでいいの?」

「そうだよ。先生もむこうのお部屋を引き上げて、一緒に帰ってきたよ」

「おかえり……結花……」

「ただいま。ちぃちゃんには心配かけてごめんね」

「ばかぁ……、そんなこと気にしないの!」

 昔とは逆だ。あたしは結花の広げた腕の中に顔を埋めた。