それを確信したのは、ゴールデンウイークのあと元気がなくなった小島先生のことを、失恋したと勘違いした何人かの女子がアタックしたときの情報を掴んでからのこと。

「先生、これまでと違ってはっきり言ったそうよ。『間に合わないかもしれないけど、もうこれ以上傷つけたくないんだ』って。それからがもぉ大変。学校中が蜂の巣をつついたような大騒ぎ」

 それまで交際相手が不在だったはずの小島先生に持ち上がった恋愛疑惑。相手は誰なんだということで当然持ちきりになる。

「私、先生に迷惑かけちゃったかもだね……」

「逆だよ。先生はちゃんと結花の気持ちに応えようとしているんだよ。だから、お互いに学校から関係がなくなれば、誰からも文句は言われなくなるから」

 当然ながら小島先生の交際相手として筆頭として上がっていたのは結花だった。

 入院中の病院に通っていたことはあたし以外にも何人かは知っていたはず。

 先生の変化は結花が退学してから顕著になっていたから。ただでさえ身の回りの恋愛事情に敏感になっている年頃だ。あたしと和人との交際だって本当に隠し通すには大変だ。

 小島先生が結花の退学の後を追うように学校を去る。少なからず悪い噂も立つとは思うけれど、二人の痛みを知っているあたしは知らないと通す決心をしている。

「結花?」

「うん?」

「結花が一生懸命に立ち上がってくれたこと、あたしは本当に嬉しい。本当に安心したよ。先生もそう決心したんだよ。一回リセットするんだよ。だから、次に出会えたときに、ちゃんと気持ちを伝えられるように準備を始めていいんだよ」

「また、会えるかな……?」

「結花と先生が、そういう運命の糸に繋がれているなら絶対に会える。もし、そうでなかったとしても、結花はもう3ヶ月前より魅力的な子になってる。このまま想い続ければ素敵な結果が待ってるから」

「そう……だといいな……」

 正直、この時のあたしに結花が先生以外の男性と交際しているシーンは思いつかなかった。

 この子を支えるには同級生じゃ無理だ。結花の笑顔だけでなく心の傷まで全てを包みこめて癒していくには大きな包容力が必要だから。少なくとも年上、そしてお互いが惹かれ合っていなくてはならない。

「今日のこと、先生に話しておいた方がいい?」

「ううん。先生も大変なんだもん。私のことで心配させることはできないよ」

 その日、結花とはいろいろなことを話した。あたしと和人との交際のこと。この先の進路のこと。

 結花は昔と変わらずに、うなずきながら聞いてくれた。

 初めて会ったときから、結花は自分の意見を押しつけないと前に言ったとおり。

 あたしが自分で話し込んでいるうちに、ふっと自分で答えが見えてくる。そして、最後にそっと背中を押してくれる。

 こんなことができる人は結花しか会ったことがない。

 これまでそんな親友に何度も勇気づけてもらった。今度はあたしが恩返しをする番だと思っているんだ。