<高校3年1学期>



 授業の終了を告げるチャイムが鳴って、すぐに帰りの学活が終わる。

 クラスのみんなが思い思いの放課後に向けて相談を始めた中、あたしは机の上に荷物を置いたまま教室を飛び出していた。

「千佳ちゃん、帰りに甘い物食べていかない? 連休中に美味しいところ見つけたんだ」

「ごめーん、ちょっと職員室に呼び出し食らっちゃって。遅くなると思うから先に帰っていて?」

「うわ、千佳って最近なんかやらかしたっけ?」

「分かんない。とりあえず覚悟だけして行ってくる」

 後ろからの声に答えて、あたしは廊下を進んで隣の教室に入った。

「ごめん、小島先生もう職員室に戻っちゃった?」

 すぐ近くにいた男子に聞いてみる。

「そうだな。なんか今日は顔色悪かった感じがした。授業が終わるとすぐに職員室に戻ったよ」

「ありがとう!」

 あたしの予感はやっぱり的中した。しないわけが無い。小島先生があの気持を懸命に隠しているのは、あたしはずっと前から知っていたことだから。

「小島先生、早まったりしないでよ……?」

 怒られないくらいに廊下を早足で進み、職員室に辿り着く頃には、さすがのあたしでも肩で息をしてしまっていた。

「失礼します!」

 扉を開けてその机の方向を見る。

 いた。やっぱり……。

 職員室できょろきょろとするわけに行かないから、すぐにその机に移動した。

「小島先生……」

「なんだ、佐伯か? どうした……?」

「先生……」

 本当は、もっと勢いよく先生に話すつもりだった。

 でも、こんなに生気をなくした先生の顔を見たとたん、あたしの中で張りつめていた糸がプツリと切れてしまった。

「先生……、原田さんが……」

「原田……」

 先生の顔色が変わる。やっぱり……。

 あたしの目から涙がこぼれ始める。こんなところじゃ泣いちゃいけないと分かっているのに。

「佐伯、落ち着いたところに場所を変えようか」

「はい……」

 他の先生たちから見られて、いろいろ詮索されたり、あらぬ誤解をされたりしたら、それこそ厄介なことになる。

 先生はあたしに落ち着くように肩をたたいて、すぐに鍵の管理庫から戻ってきてくれた。

 そのままあたしを連れていつもの進路指導室に入る。個室になっているから、他の人に聞かれることもない。

「佐伯……」

 向かい合って座る。疲れた先生の顔を見ると、また涙がこぼれ落ちてしまいそう。

「先生は、今日知ったんですか?」

「あぁ、情けないことに今日だ。昨日は出張だった。原田の奴はそれを狙ったんだろう。しかも、名簿を見て初めて知った。正直、今日はまともに授業をできた気がしない」

 そうか。先生にも言っていなかったんだ。

 先生が学校にいない日を選んだ。多分それも本当のことだ。

 それなら先生がそこまで呆然としているのも分かる気がする。

「結花……、バカだよあの子……。辛ければ他にやり方もあるのに。どうして……結花ぁ……」

 なぜ誰にも相談せずに決めたのか……。

 あたしもとうとう耐えられなくなって、机に突っ伏した。