提出を急かされている進路希望調査票は、夏休み中に行われる三者面談の資料になる。

つまり、例えば本当に橋本が言ったように『希望がないので私の学力でイイ感じに入れるところ』なんて書いた場合、それについて三十分かけて面談をしなければいけなくなる、というわけだ。



両親は深く干渉してこない代わりに、暗黙で「大学には行けよ」という圧を出してくる。それもまた、私の不安を掻き立てた。

希望大学はない。けれどまだ社会人になる勇気もない。専門学校を目指すには遅すぎる。私には、どこかしらの大学の一般入試を受けることしか選択肢がなかった。

一番確実に入れる大学を書くべきか。それとも、第一希望だけは形だけでも国公立大学を書いておくか。受けて落ちるなら、それが事実として残るから両親も何も言わないだろう。それで良いなら、そうでありたい。



普通というレールから外れるのは怖い。
私だけ置いて行かれるのは辛い。

選択肢なんて、あってないようなものだ。


ペンを持ち、ぺらぺらの紙に県内の国公立大学名をいつもより適当な字で書く。こんな紙切れ一枚に将来を記すなんて、なんてちっぽけなのだろう。


「ふーん。決めたんだ?」


いつのまにか窓から視線を戻していた橋本が口を開いた。

私の手の動きで何かを書いたことはわかっても、机に身体を預けている状態では内容までは見えなかったみたいだ。「どこ大?」と聞かれたので、第一希望に書いた国公立大学の名前を言うと、「当たって砕ける気満々じゃん」と言われた。私の学力を把握されているのは、なんだか恥ずかしかった。