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 怪我が快復した後も、おれは足繁く治の住む小屋に通った。
 治は腕っ節こそ熊のような規格外ではあったが、心根はとても優しい男だ。それは幾度も足を運び、拳ではなく言葉を交わしたからこそ知り得たこと。

「治。おまえ、里には下りないのか?」

「僕が下りたところで、歓迎してもらえるはずもない。それこそ皆、熊が山から下りてきたが如き反応を示すだろうよ。…そうは言っても、本音では少し人恋しいのだけど。」

 そう語る治の背中は、普段よりずっと小さく見えた。
 口では物分かりの良いふりをしてみても、やはりこの男は人の子だ。親兄弟と離れ、一人寂しく暮らしているのにも、のっぴきならない事情あってのことだろう。
 白雪という人外の友を持ってもなお、彼は寂しいに違いないのだ。
 …しかし、

「おれという友がありながら、人間を恋しがるなど、厚かましい奴だ。」

「ははは、怒られてしまった…。」

 そんな辛気臭い顔を見せつけられる、おれの身にもなってほしいものだ。弱々しく微笑む男を嗤いつけながら、おれもまた、ある妙案を思い付く。

「治、おれにすべて任せなさい。」

「え?君、何をする気なんだい?」

「何。おれは情に厚い鼬だ。決して悪いようにはしないから。」

 ここは友として、一肌脱いでやるべきと考えたのだ。