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 人間の(おさむ)と、白雪(しらゆき)と名付けられたおれが出会ったのは、今年最初の雪が薄らと降り積もった、寒い寒い冬の日のこと。出会い方はとてもじゃないが、おおよそ浪漫チックと呼べるものではなかった。

 兄達と共に悪行を重ねていたおれは、その所業を見兼ねた、ただ一人の青年の怪腕(かいわん)によって、抵抗虚しく成敗されてしまったのである。
 負けた者は勝った者に従うのが自然の摂理。手始めとして、治がおれに命じたのが、事もあろうに先述の「改名」だったのだ。

「白雪はなかなか強いのだね。里では敵無しだった僕でさえ、やっとの思いで制したよ。」

「おれも、ただの人間がこんなに諦めが悪いとは思わなんだ…。」

「ははは、僕は前向きな男なのです。拳を交えないと、知り得なかったこともあるのだね。」

 元を辿れば、畑を荒らしたり家畜を盗み食いしたりと、悪行の限りを尽くしたおれが悪いのだ。治は仲間達のため、退治役を買って出たに過ぎない。
 さらに治は、喧嘩の末に怪我を負ったおれの手当てまでする始末。つくづく大馬鹿者である。こんなのはおれの自業自得というやつなのに。

 人里から少し離れた山の中に、粗末な小屋が建てられている。治は子どもの頃から、そこに一人で住んでいるらしい。
 何でも、生まれつき腕っ節が立つため用心棒には向いているが、それ以外の仕事はほとほと向いていないのだとか。
 茶碗を洗えば残さず割ってしまうし、風呂を沸かせば煮え油のようにグツグツ煮立ってしまう。人と手を握り合おうものなら、小枝のように指をぽきりと折ってしまうのだとか。

「おまえもしかして、友人がいないのか?」

「うぅ……。」

 おれの何気ない問いは、治の空元気(からげんき)までも、ぽきりと折ってしまったらしい。
 しばし寂しげな背中を見せていた治だが、ふいに何か妙案を閃いた顔になって、かと思えばおれに、こんな頓狂(とんきょう)なことを命じる。

「白雪、じゃあ君が僕の友になっておくれ。」

「はあ?」

 おれもまた、そう間抜けな声で返すしかない。

「そうとも。僕は人の友達がいない。しかし白雪のように大きくて腕の立つ(けだもの)なら、骨を折ってしまう懸念もないだろう。」

 おれはただの鼬とは違う。治などより遥かに長命であるし、体も大人の人間よりもずっと大きいのだ。確かに、そう易々と骨を折られる気はない。
 友になること。それがおれを負かした治の願いならば。

「良かろう。だが、(けだもの)と侮られる筋合いはない。おれは本来なら、おまえ達人間にこそ恐れ伝えられる、物の怪(もののけ)と呼ばれるものなのだから。」

 身の丈八尺に育った大きな体は、おれが幾星霜(いくせいそう)を生き続けた証であった。そんなおれの白い毛並みを大きく撫で付けながら、大馬鹿者の治は何が可笑しいのか、一層へらへらと笑うのだ。

ーーー本当に、珍妙な男に捕まったものだ。