星羅は手の中のチェキを持て余しながら、ひとりエレベーターに乗り込んだ。
 乗り込んだエレベーターには、先客がいた。歳は星羅より少し上くらいか。可愛らしいセーラー服を着た高校生くらいの少女が、階数ボタンの前に立っていた。
「何階?」
 涼やかな声で訊ねられ、顔を上げる。少女の顔を見た瞬間、星羅は思わず口を半開きにしたまま固まった。
 目の前に立つ少女は、星羅にそっくりだったのだ。
「え……」
 そして、階数ボタンを見て、星羅はさらに困惑した。少女の前には、見たことのない数のボタンがずらりと並んでいた。
 一階から五十階。この病院に、そんな階数はない。
「私、最上階まで行くんだけど、あなたも来る?」
 少女はそう言うと、五十階の下にあった矢印ボタンを押した。
 すると――。
 くるり、と階数ボタンが回転する。星羅はぎょっとして目を擦った。今、たしかに階数ボタンが回転した。こう、くるっと。まるで、回転扉みたいに。
 言葉を失っていると、少女は言った。
「このエレベーターは、会いたい人に会いに行けるエレベーター。あなたは誰に会いたい?」
 星羅の脳裏に、ななの笑顔が過ぎる。
「私は千花。星の旅人」
「星の、旅人……?」
 ふと、つい先程の美月との会話を思い出す。目の前の少女は、美月の親友と同じ名前だった。しかも顔は星羅にそっくりときた。美月は、千花は星羅によく似ていたと言っていた。こんな偶然あるのだろうか。
「あなた、名前は?」
「……星羅」
「星羅。ねぇ、星羅は今、誰に会いたい?」
 千花は、弾けるような笑顔で星羅を見ている。
 自分とよく似た顔立ちの女の子。それなのに、この千花は自分よりもずっと表情が豊かだった。
 千花は、星羅にすっと手を差し出した。星羅はその手をじっと見つめた。
「……ななに、会える?」
 訊ねると千花はにっこりと笑い、優しい声音で言った。
「会いたい子がいるんだね」
「……でも、もうここにいないの。ななはもう、死んじゃったから」
「大丈夫。会えるよ」
「本当?」
「嘘だと思うなら、その目で確かめればいいの。さぁ、行こう」
 星羅は差し出された手をじっと見つめる。
 どくん。心臓が、聞いたことのない音を立てた。
 この高鳴りは、なんだ。苦しいのに、苦しくない。怖いのに、気になる。
 星羅はおずおずと右手を差し出す。白い手と、ほっそりした手が重なる。
「さあ、時間旅行の始まりだよ」
 ガタン、と音を立てて、エレベーターはゆっくりと上昇を始めた。