「それじゃーね」
「結婚式は呼んでくれよ?」
「ありがとうございましたぁ」
夕方に会はお開きとなり、それぞれが手を振りながら自分の場所に帰っていく。
「菜都実、貸切なんてありがとうね」
「可愛かったよ。茜音のキスシーンなんて見られるもんじゃないしさ」
「もぉ、みんなそればっかりぃ」
「みんな、二人には幸せになって欲しいのよ」
里見が後ろから荷物を持ってきた。
「ダメですよ、重い荷物持っちゃ」
「大丈夫。もう終わったよ」
持ってきた物を健と里見の車に分けて積み込む。「そうそう」と言って、茜音の手には渡っていなかった例のアルバムを渡してくれた。
「あの当時、茜音ちゃんが来てくれなかったら、ときわ園の閉園アルバム作ろうなんて思わなかったわよ」
「ありがとうございます。じゃぁ、次は明日の夕方にお手伝い行きますね。今夜は里見さんは?」
「今夜は彼のところに行くわ。旦那さんって言ってもいいけどね。健君も今夜は茜音ちゃんとゆっくりしたいでしょ?」
先に手を振って里見が出て行った。
「茜音、これさ、二人で食べて。いつも手伝いありがとうって、父さんから」
テイクアウトの容器に料理を詰め込んだものが3つ、袋に入っている。
「ありがとぉ。これなら買う必要なくなったねぇ」
夜の部に手伝いに入ってくれる佳織にも見送られて、ウィンディを後にした。
「ねぇ健ちゃん?」
さっきの会でみんなと話していたことを振り返りながら車を進めた。
「ん?」
ハンドルを握りながら、茜音に答える。
「健ちゃん、さっきあんなこと言ってくれたけど、本当にわたしでいいの?」
「前も聞かれたけど、茜音ちゃんはどうなの?」
左手で茜音の右手を持って、港を見下ろす公園の駐車場に車を止めた。右側に横須賀、左奥に横浜を見下ろした夜景がきれいだが、住宅地の中の公園のためあまり人が来ない。
いつも、横須賀のお店や茜音の実家から下宿の家や珠実園などに移動するときに休憩する場所になっている。
「わたしは……、健ちゃんしかいないよ。でも、こういうのってきっと重いって思われちゃうかもしれないし」
「うん?」
「きっと、同い年の人に比べたら、子供っぽいし、胸もないし……」
「気にしてるの?」
「昨日ね、里見さんに髪型も見てもらったんだけどね、健ちゃんに気に入って貰えるか分からないし、どんどん分からなくなっちゃって」
いつも左右に下げている三つ編みを後ろに持って行き、その2本をヘアゴムとリボンの付いた髪留めでまとめてやる。それだけでも、ぐっと大人っぽく変わるのだけど、これまでヘアスタイルを滅多に変えたことがないだけに、自信がもてない。
「茜音ちゃん……」
それだけ言うと、両腕で茜音は抱きしめられた。
「はぃ?」
「可愛いよ。茜音ちゃんは。誰にも渡さない」
「健ちゃん……」
顔を上げると、健も切なそうな顔をしてた。
「僕も、茜音ちゃんがどんどん可愛くなって、素敵な女の子になっちゃうから、気が気じゃなくて……。絶対に茜音ちゃんを取られたくない。でも、僕は高校卒業も1年遅い。せっかく会えたのに、また離れちゃうのかもしれないって思うとさ」
「ううん。わたし、ここにしか居られない。他には居場所がないから、放さないで……。お願い……また一人にしないでぇ……、もぉ、やだよぉ……、寂しいのはやだよぉ……」
すすり泣きを始めた茜音。震わせる肩を力を入れて抱きしめた。