「茜音ちゃん!」

「なんだぁ! ちゃんといたんだぁ」

「やっぱ健にはもったいない!」

「勿体ぶるなよ!」

「その雰囲気、変わらないねぇ」

「なんかホッとした」

 口々に声がかけられるなか、健に手を引かれてステージに上がる。

「お待たせしました。あの茜音ちゃんです」

 拍手の中、茜音にマイクを渡す。

「えっと……、なんか変な登場になっちゃいましたぁ……。今日は本当にここにはアルバイトで来ていたんですけど、気が付いたらこんな会場になるって分かって。嬉しいやらビックリしていると言うか……」

「でも、その服装にしていたってことは、今日のこと知ってたんでしょ?」

 あの写真は茜音だけではなく、健にも焼き増しされて持っていただけでなく、後日作られた閉園記念写真集でも配られたから、記憶に残っている者も多い。

「ううん、里見さんにすっかり遊ばれちゃいました」

 全員の視線が二人に集まっていた。

「本当に、あのときのことは、ご迷惑をかけたことは、僕の責任です。探してくれたみんな、道連れにしちゃった茜音ちゃんも含めて、謝らなくちゃなりません。すみませんでした」

「二人は順調に会えたの」

 その質問に、茜音が苦笑した。

「後から知ったんですけど、健ちゃんはずっと場所を知っていたそうです。でも、わたしは全然知らなくて……。本当に日本中走り回って、でも見つからなくて、もうダメだって思ったときに、健ちゃんが託してくれた手紙が、本当に奇跡みたいに受け取れて、行くことが出来ました。あの手紙が無かったら……、きっと今、わたしは生きていなかったと思います……」

 会場は静まりかえっていた。思い出したに違いない。茜音が入所した当時、両親を亡くしたショックで言葉を話すことも出来なくなったこと。寂しさのあまり、外で一晩泣き続けて朝になって園庭の隅で保護されたりと、茜音は何度もその不安定さから心配されてきた。

 それが、同い年の健という存在によってゆっくりと立ち直った。

 だからこそ、園内の例外を作ってまで、この二人にはいつまでも一緒にいてほしかった。あれだけ大騒ぎになった駆け落ち事件について誰も怒らなかった。

「茜音ちゃん……、よかったね。頑張ったね」

「はい……」

「今は幸せになれた?」

「はい……。今は幸せです。一応ね、わたしの両親には紹介してあって、ちゃんとお付き合いもしています。まだ健ちゃんもわたしも学生なんで、落ち着いたらって思ってます」

「すごぉい!」

「健! 絶対に茜音ちゃん幸せにしろよ!」

「そうよ、こんな一途な子、二度と現れないからね」

「はい。みんなの前で誓います。必ず茜音ちゃんを幸せにします」

「健ちゃん……」

 隣の健を見ると、手を握ってくれた。

「二人とも、誓いのキスは?」

「えー?」

 再び顔が真っ赤になった二人だが、アルコールも入っている会場のキスコールが収まらない。

「いいよ……?」

「じゃぁ、ちょっとね」

「うん……」

 目を閉じて、顔を上向きにする茜音。

「やっぱり茜音ちゃん可愛い!!」

 そんな歓声の中、柔らかい感触をお互いの唇に刻み込んだ。