昼食の時間も終わり、食器やテーブルの片付けも終わらせた店内。
「菜都実ちゃん、本当に悪いわねぇ」
「いえ、みんなご馳走になっちゃったし。突然押しかけて騒ぎを起こしちゃいましたから」
結局、他のメンバーが出た後、まだ仕事中の保紀を待つために、店の客席側の手伝いを買ってでていた。
店が違うとは言え、菜都実も飲食店の家の娘だ。接客はメニューさえ覚えてしまえばお手のものだし、調理師免許をとるために専門学校に通っていることから、ネイルなどの装飾もしていない。髪の毛をまとめてエプロンを着ければそのまま作業に入れる。
「このままずっと手伝って欲しいくらいだ」
「おじさん、それ冗談になってないですよ」
今や両家公認で恋人同士という立場なのだから、希望さえすれば今日からでもそのポジションは手に入れられる。
「菜都実、お待たせ」
厨房用から私服に着替えた保紀が迎えにきた。
「じゃぁ、行ってきますね」
荷物を後部座席に載せて、保紀の運転する車の助手席に座る。
「こっちで免許取ったんだ?」
「小さい島だけど、やっぱ無いとな。どこに行く?」
菜都実を乗せて、これまで通ってきた中学や高校などを回りながら海岸線を走る。
菜都実が以前にこの島を走ったことがあると聞いて、その先は好きなところに行くだけだった。
「どうする? あのビーチ行く?」
「うん、最後はそこにしようって思ってた」
昨日は自分の案内でやってきた海岸。あの出来事が無ければ、横須賀の海岸でいつでもこうして二人並んで夕陽を見ることができたのかもしれない。
「あたし、妹がいなくなって、からっぽになっちゃったとき、やすの写真に救われた。ずっとお礼が言いたかったんだ。ありがとう」
「あのくらいしか出来なくて、菜都実の役に立てたか分からなくて。でも、菜都実がここまで一人で来ていたってのは驚いたな。寄ってくれてもよかったのに」
「ううん。あの時は横須賀から逃げてきたんだ。耐えられなくなって。本当に着の身着のまま。とてもやすに見てもらえるような姿じゃなかった。やすにも、あのみんなにもいつも心配とか迷惑かけて。でも、みんな泣けちゃうくらい優しくて。今日の服はさっきの茜音と一緒に買いに行ったの。『せっかく沖縄の海に行くんだから可愛くしようよ』って」
「うん、ほんと可愛いよ。久しぶりだからすごく新鮮」
「そっか、それならよかった」
セーラー襟と縦に飾りボタンのついたロングTシャツに襟と同じマリンブルーのミニスカート。スニーカーでもいいように茜音がコーディネートしたものだ。今朝、ホテルの部屋で着替えたとき、同室の佳織も絶賛していた。
「菜都実、強くなったんだね」
「ここで一人大泣きした。よく通報されなかったよ。やすのこと1日だって忘れたこと無いし、近くにいるのも分かってたけど、そんなあたしがその時に行ったとしても、今回みたいな展開にはならなかったと思う」
今回、みんなが協力してくれたのは、やはりそれぞれがきちんと高校までを卒業し、将来に向けて確かに歩んでいることを認めたからに他なら無い。
「待たせてごめんなさい。本当のこと言うと、空港に下りるまでは恐かった。本当に最後は当たって砕けちゃってもいいやって思ってたのに。昨日の夜は不意打ちされたなぁ」
計画した茜音たち三人や両親はともかく、保紀まで知っていたとなれば、自分だけが全容を最後まで知らされずに連れてこられたことに気づく。最初から「保紀に会いに行く」とタイトルをつければ、きっと自分が計画段階から躊躇してまうことを心配した友人たちの配慮だと。
「本当に来るのか、どういう顔すればいいのか俺も分からなかったよ」
「それはあたしの方が焦ったよ。どのタイミングなんだろうと思っていたら、ドッキリじゃん。まぁ……、せっかくここまで来たからにはって覚悟は決めてたんだけどね」
昨日は四人で座った海岸に今日は二人だけ。
海岸に打ち寄せる波は静かな音で二人のことを出迎えてくれた。