宮古島空港に着いて、レンタカーの手続きに事務所へ移動する。
「さて、せっかく来たんだし、一回りしてみますか」
「写真にあったビーチ行ってみたいなぁ」
「砂山ビーチでしょ? ナビ出る?」
もう一度空港の方に戻り、さらに北上。市街地を抜けてしまうと、サトウキビやパイナップルなどの畑が広がる。同じような景色が続くので、意識していないとどのくらい進んだのか分からなくなってしまいそうだ。
それでも近場になると「砂山」と書かれた案内板もある。ほどなくして駐車場に車を停めた。
「ちゃんとサンダル履いていきな。裸足だと痛いし傷だらけになっちゃうよ」
出発の直前、菜都実からそんなメールが入っていたことを思い出す。
数百メートルの坂を上り、切り通しから海が見えると自然と足は早まった。
「きれいだねぇ」
吸い込まれるように波打ち際まで走っていく。
真っ白な海岸線の浜に宮古ブルーとも呼ばれるコントラストは見事だ。
宮古島は石灰質の土台の上に珊瑚礁ができ、それらが隆起して生まれた島だと言われている。そのためか高い山がないので雲ができず、空は抜けるように青い。また同じ理由で降った雨がすぐに地面に染み込んでしまうため大きな川がないことから、この島の周辺の海は濁りがない。
珊瑚のかけらが細かくなった砂浜は真っ白だが、裸足で歩くには少々痛い。
波が時間をかけて浸食したこの浜にあるトンネルは島の名所としてもガイドブックにもよく登場する。
「この海を見るだけでも来てよかったって思っちゃうなぁ」
「うん。なんか帰りたくないなぁ」
「ほんと、ここまで来ちゃうとね」
「ねぇ、あんな方に空港あった? 宮古の空港とは方向違うよね」
佳織が指さす方には、飛行機が向かいの小さな島の方に降りていくところだった。
「下地ね。この時間ならまだ間に合うか……」
菜都実の声でさっきの砂山を登っていく。帰りの方が勾配がきついので、車に戻るだけでも一苦労だ。
助手席の茜音と後部にいた菜都実が入れ替わり、彼女はナビの画面など見ずに健に方向を指示していく。
以前は水道を隔てた伊良部島へはフェリーで渡るしかなかったという。海上の橋で繋がれてからはフェリーの時間を気にする必要がなくなった。
伊良部島に渡ってからも、海沿いの道を指示していく。
「さっきの飛行機は下地島空港って言って、今は格安航空会社とか、たまに訓練に使ってる。それよりも見せたいものがあんの」
空の色が真っ青から徐々に夕焼けの黄色に染まりつつある。
腕時計を見ながら、菜都実は目的の島、下地島への橋を指示して南側から海沿いのルートを進めた。
「健君、あそこの広くなっている路肩に停めてくれる?」
言われるままに車を下りると、海沿いが小さな砂浜になっていて降りていくことができる。
先ほどの砂山ビーチとは違い、海は岩場になっているので、魚たちが泳ぐ姿を見ることもできる。
「きれいだぁ……」
ビーチの石の上に腰を下ろす茜音。まもなく日の入りで、周囲を赤く染め上げていた。
ここから日の沈む方向には水平線しかない。全員言葉も出ずにその時間を見送った。
数分後、今日の太陽は真っ赤な残り火をあげながら、海の中へと溶けていった。