残った二人は菜都実を見送った後もその間を動けずに考えていた。
「うーん。きっかけがないんだねぇ」
最初に口火を切ったのは茜音だ。
「そうだね。なんか話を聞いている感じでは二人とも仲が悪いって訳ではなさそう」
「うん。そうだよぉ。嫌いになっちゃったら、連絡先を渡したり、手紙を送ったりはしないと思うんだよね」
二人とも意見は固まっている。
「なんとかしてあげたいなぁ……」
菜都実は強がっていても、今でもその保紀のことを思って寂しがっているし、逆も間違いなさそうだ。
ただ、こうなった原因が原因だけに、なかなか二人だけでは再会するタイミングが計れないだけのかもしれない。
「これは…、健ちゃんに相談かなぁ」
「なに、なんか考えたの?」
唐突に健の名前が出たので、佳織は尋ねる。
「うん……。まだ出来るかどうか分からないんだけどねぇ……」
「微妙な問題かもしれないから、あんまり急いで首を突っ込まない方がいいかもしれないわよ?」
「そうだよねぇ。いきなり飛び込んでもねぇ」
ことの重大さは茜音たちの時以上かもしれない。
それぞれの居場所が分かっていながら顔を合わせられないのであれば、二人の想像を超えるものがあるのかもしれないから。
「もう少しいろいろ状況を調べてから動いてみることにするよぉ」
「そうね。でも新学期始まるから、あんまり時間はないかもしれないわよ?」
再び商店街に引き返し、本来の買い物を済ませながら、来週に控えた入学式などの予定を思い出す。
「そうだけど、空いている時間はあるよぉ。佳織の方が忙しいと思うから、わたしと健ちゃんで相談してみるよぉ」
佳織と別れたあと、茜音は一人、菜都実の家でもある喫茶店ウィンディに向かった。
日もすっかり落ちた後で店の中の方が明るくなっているためか、道路の反対側に立っている茜音には店内から気づかない。
店の中でいつも通りに給仕の仕事をしている菜都実が見えた。
昼間にあれだけのことがあったにもかかわらず、その様子は微塵も感じられない。
「いつもあんなことしてたんだもんねぇ。それは辛いよぉ……」
茜音は菜都実が忙しそうなのを見届けると、店には寄らずそのまま家の方へ消えていった。
「もし、二人が会いたいと思っているなら、そろそろ頃合いじゃないかなぁ? 高校も終わったわけだし、菜都実は専門だから2年でしょ?」
その晩、横須賀の茜音の家では佳織と呼び出された健も集まって夜遅くまで話し込む姿があった。
「4年制大学に行っちゃうと、またそこで時間が空いちゃうからねぇ」
同じように2年で卒業となる短大に通う茜音もその作戦は理解できる。高校を出た時点で、茜音は自分の将来をほぼ決めていたからだ。
学校に通っているのは、それまでの時間で何か自分に出来ることを少しでも増やしておきたいという気持ちからと周囲も理解している。
菜都実が進路を専門学校にしたと聞いたときには少し驚いたが、彼女の事情を知った今ではそれは十分すぎるほど理解できた。
それだけではなく、菜都実は自分が健との再会のための旅を続ける上で、いなくてはならないほどの協力メンバーだった。
献身的なほどの二人の手助けがなければ、茜音の今はないと考えていたくらいだ。
今の茜音が出来ることと言えば、その恩返しだと常々考えていた。
「ちょうどいいんじゃないか? お互いの気持ちは今から確かめるしかないとしてさ。もし菜都実さんたちの気持ちが今でもそれを望んでいるなら、協力することはしても」
ずっと話を聞いていた健が、そこで言葉を発した。彼も茜音と同じで、今回の話を聞いたくらいで動ずることはない。
「まずは、その彼がいまどこにいるのか。そこからだな」
この発言は、彼の経験上からも軌道修正は十分に可能だと判断したからに他ならないのだから。