「そんなことになったんだぁ……」
「よく、両方の親がそれで許したわね?」
茜音と佳織の感想も妙だが、それが二人の素直な感想だった。
茜音が過去にお世話になっていた福祉施設や、その彼である松永健が働きながら生活を送っている珠実園にいる子たちの中には、そのような状況で誰にも相談できずに生まれ、肉親が育てられずに施設に預けられたという境遇の子もいる。
「まぁ、そこで大喧嘩してもなんにも解決にならないって、みんな分かってたのよね。病院だってたまたま身内だし。学校には体調不良ってことの診断書を書いてもらって、しばらくは運動も自粛。おかげで大会のメンバーからも外されちゃった。大会に出れば内定が確定した高校の推薦も取り消しになった……。でも、仕方なかったよ……」
「そんなぁ……」
そのときの菜都実の気持ちを考えると、茜音もやりきれない思いで染まる。
「でさぁ、さすがあたしの子供だよね。決着の付け方まで親とそっくりだったんだ」
「そうだったの?」
「次の休診日の前の夜、入院したのはいいんだけど……。直後に大出血してさ……。あたし病院のトイレで倒れちゃって。で、目が覚めたときに言われたのよ。終わったよって」
そのときの菜都実と同じように、きょとんとした茜音に、菜都実は続けた。
「あの子、自分で出て行ったの。あたしに迷惑かけないようにって……。とんだ親子だよね。結局お別れも言えなかった……」
そのあと、菜都実は部活に復帰することもなく引退。夏休みを迎えた。
「でね、そのあとやすが突然引っ越すことになっちゃってさ」
「えー?」
「まぁ、理由は話してくれなかったけど、間違いなく責任をとってのことだろうけどね。そんな責任なんてとる必要なかったのに」
「うん……」
「でも、やすは決心してたみたい。あとで両親が話してるのを聞いちゃって……。うちらがちゃんと責任を取れるくらいの歳になるまでは、あたしの前に現れないようにするって」
「それは辛いわね……」
佳織も顔をしかめる。
恋人付き合い初心者である佳織自身にまだ別れの経験はないけれど、保紀と菜都実は時期が早すぎたとは言え、お互いの気持ちを確かめ合った関係だと理解している。
それだけ心が通じているのに、会わないと決断するだけでも相当の覚悟だっただろう。
「だからね。お互いとあの子のことを忘れないようにって、あのお地蔵さまを二人でお願いしに行って建てたの。もう二度とあんな悲しい思いをしちゃいけない。それを忘れないようにって」
「それから会ってないの?」
「うん……。やすの決意どおり結局一度も」
「そっかぁ……。それは寂しいよね……」
菜都実の気持ちも茜音が一番理解できる。本当はずっと一緒にいたい二人が、理由や事情はともかく離ればなれにならなければならない状況は身をもって経験しているから。
そう、そして二人とも頭の中にはあるのだ。
今はもう「早すぎる過ち」の心配は要らない歳になっているのだということを……。