食事会を終えて両親は先に帰宅し、茜音と健の二人は二人の時間をもらってから帰宅することになった。

 横須賀の夜景がよく見える海沿いの公園。周囲にもそれらしい二人連れがたくさん見られる。

 さっきの件でもう両親公認となってしまったわけで、焦りはしたものの、今はなんだかさっぱりしている。

「健ちゃんひどいよぉ~。昨日には分かってたんでしょう?」

「ごめん。茜音ちゃんを驚かせたいから黙ってるように言われていたんだ」

「ふ~ん。あ、そっかぁ。自宅の電話に名前登録したから分かったんだぁ」

 茜音は両親がどうやって連絡を取ったのかをずっと疑問に考えていたけれど、蓋を開けてみればなんてことはない。自分の携帯電話だけではなく、自宅の親機にも名前登録をしてあっただけのことで、それに気が付いた。

「今度、片付け終わったら、さっき言っていたお家に案内するね。ちょっと今はテレビもないから。準備するのに少し時間かかるよぉ。あと、健ちゃんところのお手伝いとか行くからぁ」

「そうだね。みんな見たがってるし……。大変な騒ぎになってるみたいでさぁ……」

「う~、そんなに騒がなくてもぉ」

 夏休み中なので、学校での反応がまだ分からないが、恐らく全校生徒にうわさは広まっていると考えてもいいだろう。

 2学期の初日は大変なことになるのではないかと思っている。

「そういえば、茜音ちゃん」

「ほう?」

「さっき、ご両親の前であんなこと言ってたけど、本当に後悔しない?」

「うん。もう決めてた。何があってももう離れたくない……」

 隣に立っている健の腕をぎゅっとつかむ茜音。

「茜音ちゃん……」

「お願い……。わたしを……、もう茜音を一人にしないで……」

 彼一人にしか聞こえない小さな声。その声は震えていた。

「茜音ちゃん、僕の顔を見てくれる?」
 
「うん?」

 小さな外灯の光の中で見る茜音の顔。頬には細い筋が残っている。それでも一生懸命に微笑んでいる顔は小さくて、施設で初めて茜音に出会ったときと同じように瞳が揺れていた。

「本当は、ご両親の前よりも茜音ちゃんに先に言いたかったんだ。僕のことを分かってくれるのはあのときから茜音ちゃん一人だけだったんだ。……これからもずっと一緒にいてくれるかな。時期が来たら、二人であったかい家族を作ろう……」

「本当に……いいのぉ……?」

「うん。それを実現するには茜音ちゃん以外に考えられないんだ」

「ありがとぅ……。大好きぃ……」

 飛びついてきた茜音の細い体を両腕で抱きしめる。

「10年……、くらいしたら結果出てるかな……?」

「そうだねぇ。これまでの10年頑張ってこられたんだもん。これからは二人だもん。大丈夫だよぉ」

「約束だよ」

「うん。約束ぅ」

 幼かったあの時と同じように、小指を絡ませた。楽しいことも、辛いこともあるかもしれない。でも、これからは二人で一緒に進めばいい。

 そんな二人を夏の星座が静かに見下ろしていた。