「悪いねぇ。なんか用事があったんでないの?」
寺院を後にして、ようやく日差しが出てきて暖かくなりはじめたというのに、人気のない児童公園で、三人はベンチに腰を下ろした。
「どうせ大した用事じゃないから。それより菜都実の方が気になってさ」
佳織が三人分の缶コーヒーを買ってきて渡す。
「そんなにあたし落ち込んで見えたかな」
「うん、そうだねぇ。落ち込んでいたというか、普段見たことがないから何かあったのかなって……」
茜音の素直な感想だ。高校で出会ってから3年以上の付き合いになるのに、さっきの菜都実の姿は一度も見たことがなかったから。
「そっか……。まぁ、仕方ないかぁ……。誰にも話してこなかったもんなぁ……」
さっきの線香の煙が昇っていった春霞のかかる青い空に視線を上げる。
「まぁ、別に見られたのが今回が初めてだってだけで、実は毎月同じことしてたんだけどさ」
菜都実は、しばらく話を止めてどうするか考えているようだった。
「見てたと思うけど、さっきのお地蔵さんってさ、普通のじゃないんだよな」
「うん、それは分かったよ」
それが分からないほど二人とも世間知らずではない。
たくさん並んでいた小さな地蔵は、普通とは建立の由来が違う。
病気や何らかの理由により、この世に生を受けることができなかった小さな命を祀るためのもの。戒名すら付いていないことも多い。
一般的には水子地蔵と呼ばれる。地蔵とは名が付くけれど、経験した者からすれば、あれも立派な墓碑であることに違いはない。
「あれは、菜都実の弟妹の?」
普通はそう考えるだろう。しかし、菜都実から返ってきた答えは二人の想像を超えていた。
「ううん。あれはあたしがお願いしたんだ。あたしのだから……」
「えぇ? 菜都実の……?」
あっけにとられている二人。
「ど、どういうこと……?」
「あれはね……、あたしが中学の時に建てたのよ。彼氏と二人で……」
「そんな!」
「ほえぇ?」
聞いている方には、菜都実の口から語られる話の内容すべてが衝撃の連続だ。
「うーん、とりあえず、どっから話せばいいかな」
「うぅ。どっから聞けばいいのかなぁ?」
どうやらこれから語られる話の内容は数々の事態を乗り越えてきている茜音ですら想像できる範囲をすでに超えてしまっているような気がした。
「うん……。うちらもどこまで聞いていいものか分からないから、話したいところだけ話してくれないかな。菜都実の気持ちが少しでも楽になるなら、それでいいと思うし」
佳織が促すと、茜音も同意というようにうなずく。
「まぁ、さすがにあんまり大きい声じゃ話せないんだけどさ。茜音と佳織だもんね、二人に隠し事はしたくないな……」
菜都実は記憶をたぐり、整理をするようにぽつりぽつりと話し始めた。