【茜音 短大1年 夏休み】
「……茜音と会ったのって、高校の初日だったっけ?」
「違う違う。菜都実は櫻峰の結果発表の日だよ。ほら、補欠合格のところにいて、番号なくて落ちたって思ったって」
厨房の菜都実に、テーブルをセットしていた佳織が首を横に振る。
「あぁ、それで佳織が正規合格者のところに番号あるって教えたんだっけ」
「まさか、受験の時に前に座ってたのが茜音だったなんてねぇ……。どこにきっかけがあるか分からないものだわ」
「あぁ、恥ずかしい……もぉ。そんなきっかけだったねぇ」
ランチの営業時間が終わったウィンディでは、午前中に自宅の家事を済ませた茜音の到着を待って三人組が遅い昼食を取っていた。
「そんな茜音に、『10年間の約束』だなんて話がくっついているなんて、その時は予想もしていなかったけどね」
「それが校内ヒロインまで成長したよなぁ。最終的には成功させちゃったんだからさぁ。根性というか、とにかく最後の頃の執念は恐いくらいだったぞ?」
「そ、そうかなぁ……?」
「あんだけ気迫があれば、もう誰もからかったりはしないだろうに」
「そんなに恐かったかなぁ……?」
茜音が首をひねると、佳織も菜都実を援護するように、
「そうね。菜都実と私もこれなら茜音が次に進んでも大丈夫だって思ったし。もう短大では前みたいにいじめられたりはしていないでしょ?」
春に無事高校も卒業し、今はそれぞれ茜音が短期大学、佳織が4年制大学、菜都実が専門学校と違う道を進んでいる。
しかし週末や休みの日はこうやって高校時代と変わらず集まっては遅くまで話し込んでいくのが習慣になっていた。
さらに最初の夏休みに入ってからは、毎日のように通うのが当たり前のようになっている。
「うん。もう嫌がらせはないかな。みんな全国あちこちから集まっているし。あと小峰さんがゴールデンウイークのコンサートで紹介してくれた記事が大きかったみたいでねぇ……」
「その記事見た見た! 反響凄かったじゃん」
昨年、高校3年生の夏は茜音にとっても人生が大きく変わったタイミングだった。
幼くして10年後の再会を誓った健との約束を結実させ、彼が生活していた福祉施設である珠実園に出入りすることになってから、
事故で亡くした実の両親との深交があった音楽家の小峰氏とも再会。
彼がオーケストラメンバーに紹介すると同時に、各種のイベントに演奏や歌唱ゲストとして登場するなど、これまでの交通事故孤児から養子になったりと、どちらかと言えばネガティヴなイメージを抱かれだちだったものが、一気に逆転した。
「大学でいじめはないだろうなぁ。それに茜音だけじゃなく、うちらだって少しはモテるように成長したんだからさ。佳織は原田君だっけ?」
佳織の方を見る。彼女は茜音の成功を見届け半年後の卒業式直前から、1年後輩の男子生徒との交際を始めていた。
今では佳織の入った大学に入るために猛勉強中ということで、表立ってデートなどもできていないらしいが、その代わり佳織が家庭教師に行っているというのだから、何かと上手くやっているようだ。
「休みだし、今度連れてくるわよ。今の男子にしては珍しいくらいおとなしくて素直な子ね。かと言ってお坊ちゃんでもないし」
「佳織に今から言われてるんじゃぁ、将来がちょっと心配だな」
「なによそれ。菜都実だって同じようなもんじゃない? まぁ彼が菜都実にゾッコンなのかはよーく分かったけどね」
「佳織も急に言うようになりやがって……」
そんな二人のやりとりを、茜音は面白そうに見ている。
「なにをそんなにニコニコしてんのよ」
「だってぇ。やっぱり変わらないなぁと思って」
三人の持ち寄った話によれば、少なからず高校から大学に進学したときにイメージチェンジにはしる、いわゆる「大学デビュー」がいたようだ。
茜音は普段の生活がこの街から離れてしまったものの、菜都実の情報では少なくとも高校時代の同級生の数人はガラリと変わってしまった姿を見かけることもあるという。
「……茜音と会ったのって、高校の初日だったっけ?」
「違う違う。菜都実は櫻峰の結果発表の日だよ。ほら、補欠合格のところにいて、番号なくて落ちたって思ったって」
厨房の菜都実に、テーブルをセットしていた佳織が首を横に振る。
「あぁ、それで佳織が正規合格者のところに番号あるって教えたんだっけ」
「まさか、受験の時に前に座ってたのが茜音だったなんてねぇ……。どこにきっかけがあるか分からないものだわ」
「あぁ、恥ずかしい……もぉ。そんなきっかけだったねぇ」
ランチの営業時間が終わったウィンディでは、午前中に自宅の家事を済ませた茜音の到着を待って三人組が遅い昼食を取っていた。
「そんな茜音に、『10年間の約束』だなんて話がくっついているなんて、その時は予想もしていなかったけどね」
「それが校内ヒロインまで成長したよなぁ。最終的には成功させちゃったんだからさぁ。根性というか、とにかく最後の頃の執念は恐いくらいだったぞ?」
「そ、そうかなぁ……?」
「あんだけ気迫があれば、もう誰もからかったりはしないだろうに」
「そんなに恐かったかなぁ……?」
茜音が首をひねると、佳織も菜都実を援護するように、
「そうね。菜都実と私もこれなら茜音が次に進んでも大丈夫だって思ったし。もう短大では前みたいにいじめられたりはしていないでしょ?」
春に無事高校も卒業し、今はそれぞれ茜音が短期大学、佳織が4年制大学、菜都実が専門学校と違う道を進んでいる。
しかし週末や休みの日はこうやって高校時代と変わらず集まっては遅くまで話し込んでいくのが習慣になっていた。
さらに最初の夏休みに入ってからは、毎日のように通うのが当たり前のようになっている。
「うん。もう嫌がらせはないかな。みんな全国あちこちから集まっているし。あと小峰さんがゴールデンウイークのコンサートで紹介してくれた記事が大きかったみたいでねぇ……」
「その記事見た見た! 反響凄かったじゃん」
昨年、高校3年生の夏は茜音にとっても人生が大きく変わったタイミングだった。
幼くして10年後の再会を誓った健との約束を結実させ、彼が生活していた福祉施設である珠実園に出入りすることになってから、
事故で亡くした実の両親との深交があった音楽家の小峰氏とも再会。
彼がオーケストラメンバーに紹介すると同時に、各種のイベントに演奏や歌唱ゲストとして登場するなど、これまでの交通事故孤児から養子になったりと、どちらかと言えばネガティヴなイメージを抱かれだちだったものが、一気に逆転した。
「大学でいじめはないだろうなぁ。それに茜音だけじゃなく、うちらだって少しはモテるように成長したんだからさ。佳織は原田君だっけ?」
佳織の方を見る。彼女は茜音の成功を見届け半年後の卒業式直前から、1年後輩の男子生徒との交際を始めていた。
今では佳織の入った大学に入るために猛勉強中ということで、表立ってデートなどもできていないらしいが、その代わり佳織が家庭教師に行っているというのだから、何かと上手くやっているようだ。
「休みだし、今度連れてくるわよ。今の男子にしては珍しいくらいおとなしくて素直な子ね。かと言ってお坊ちゃんでもないし」
「佳織に今から言われてるんじゃぁ、将来がちょっと心配だな」
「なによそれ。菜都実だって同じようなもんじゃない? まぁ彼が菜都実にゾッコンなのかはよーく分かったけどね」
「佳織も急に言うようになりやがって……」
そんな二人のやりとりを、茜音は面白そうに見ている。
「なにをそんなにニコニコしてんのよ」
「だってぇ。やっぱり変わらないなぁと思って」
三人の持ち寄った話によれば、少なからず高校から大学に進学したときにイメージチェンジにはしる、いわゆる「大学デビュー」がいたようだ。
茜音は普段の生活がこの街から離れてしまったものの、菜都実の情報では少なくとも高校時代の同級生の数人はガラリと変わってしまった姿を見かけることもあるという。