「あのときと同じだね……」
当時と違い、まだ夕焼けの残る空。海に面した柵に寄りかかり、茜音は健の腕に触れた。
「まだ半年しか経ってないんだねぇ」
「そうだね。長かったのか短かったのかよく分からないよ」
「うん、わたしも……。同じこと思ってた。色々あったなぁって」
二人の初デートの余韻が残る翌日、片岡の両親の計画で、彼女は正式に健を家族に紹介することになった。
「あのときにさぁ、茜音ちゃんをお願いしますって、頭下げられて、どう返したらいいかちょっと困っちゃったんだけどね」
「そうだねぇ。それじゃぁ結婚を申し込みに行った時みたいだよねぇ。でも逆かぁ」
「そうだね。また時期が来たら、今度は本番かな」
「あはは。うん、うちは相手が健ちゃんなら、時期は二人で決めなさいって言われてる。わたしも待ってるしぃ。それに……もう待ちたくない……」
二人が再会して、僅か半年と少ししか経っていない。それにしてはこれまでの10年間にも勝るとも劣らないたくさんの出来事が二人の間に起きた。
「でも、楽しかったよぉ。二人になるって、こんなに安心できるんだって分かった」
「僕もそう思う。ようやくこれで僕も一人じゃなくなったんだなって思って、ホッとしたって言うのかな。茜音ちゃんがああいう中で本当によく無事でいてくれたって言うか……ね。ありがとう。頑張ってくれて」
健は一人での生活とはいえ、珠実園という中で育ってきた。確かに思春期の微妙な時期ではあったものの、そこは同じような施設の仲間たちがまわりにいたおかげで、周りが思うほど人一倍苦労してきたとは彼自身あまり感じていない。
しかし、知れば知るほど茜音のこの10年間は、彼女にとって過酷だったと彼は思った。
事故の記憶は表面上は消えても心の深層からはなかなか消えることは出来ない。
片岡家に引き取られてからも、新しい小学校、中学校に進んだところでは、必ずそのことは蒸し返され、実の両親がいないことを理由にたびたび苦労を重ねてきていた。
一度入学した地元の中学校にはなじめず、僅か1ヶ月で転校を余儀なくされたという。
年末の大掃除の時、茜音はその時の制服を発見した。
まだ真新しい冬服。一度も袖を通すことが出来なかった新品の夏服。片岡夫妻はそれらを処分せずにこの家に大切に保管しておいてくれた。
『これ、着られなかったんだよ……』
試着してみたところ、ほとんど当時から身長も変わっておらず、中学生という伸び盛りの時期を持たせるために少し大きめに作ったこともあり、今でもほぼぴったりに着られた。
『ごめんねぇ、着てあげられなくて……。わたしが弱虫だったから、ごめんね……』
彼女なりに悔しかったのだろう。もう一度大事そうにクローゼットに戻しながら、茜音はポロポロと涙が止まらなかった。
健の提案で、夏服のセーラー服はともかく、ブレザーの冬服ならブラウスやベスト、スカートならば使えるのではないかということで、茜音はそれに合う服を探したり、服のことならと、すっかり親友となった萌とリメイクの相談もしているという。