【茜音 高3 3学期】



(けん)ちゃん、今度の土曜日お出かけしない?」

 片岡(かたおか)茜音《あかね》はキッチンでおやつを用意しながら振り向いた。

「土曜日? うん、大丈夫だと思うよ」

 リビングで掃除を手伝っていた松永(まつなが)健《けん》は笑顔で即答した。

「じゃ、決定ね」

 茜音は買い物途中で買ってきたシュークリームと紅茶を三人分用意した。

未来(みく)ちゃん、おやつだよぉ」

 こちらも庭で片付けをしてくれていた田中未来を呼ぶ。

「はーい」

「お疲れ様ぁ。寒かったでしょう」

 ミルクティのために牛乳を温めて持って来る。

 日曜の午後、茜音の家では荷物の整理が行われていた。

 茜音の両親の品は自分で少しずつ片付けていたけれど、やはり力仕事は男性の力を借りたいと痛感。

 そこで、すっかり茜音の彼氏として定着した健にお願いをしたところ、今も児童福祉施設で一緒に過ごしている未来が手伝いに来てくれていた。

「今日はありがとう。あとはわたし一人で片付けられるから」

 今夜もこの家に泊まり、明日はここから直接高校に通うことになっている茜音とは違い、健と未来はこの後彼らが生活している施設である珠実園(たまみえん)に帰らなければならない。

 健と二人だけならもう少し……、と言うことも考えていた茜音だけど、未来が一緒ではそういった時間をねだることも躊躇われる。

 そこでカレンダーを見ていた茜音が計画したのが、次の土曜日に外出することだったらしい。

「茜音姉さん、今日もここで泊まるんですか?」

「うん。もう少しクローゼットとかの中を整理しないとならないからね」

 そのために、この家に入ってくるときに2回分の食事の用意は買ってきてある。

「そうなんだ。なかなか終わらないね」

「仕方ないねぇ。パパとママの大切な思い出だから、なかなかあっさりと処分できないしぃ」

 茜音は苦笑して言う。彼女が6歳の時に失った両親が残した品々だけに、それがどの程度重要なのかを判断するのに時間がかかっているのだという。

 冬休みも終わり、無事に進路も決まった茜音。学校中で注目されていた10年越しの約束も無事に果たし終え、一時期の混乱も収まり、今は残り少ない高校生活をのんびりと楽しんでいる。

「明日は、学校も午前中で終わるから、ウィンディの前に珠実に行くね」

 前年の夏、学校の課題の関係で偶然訪れたのが、健と未来のいる珠実園だった。

 生まれてすぐに園の前に置き去りにされていたという彼女を世話していたのが、茜音と離ればなれになった後の健だったということもあり、未来は健に絶対の信頼を置いていたし、年頃になってきてからは、淡い思いを持ち始めていた。

 その矢先に園内でも伝説となっているもう一人の主役である茜音がやってくると分かる。

 健を取られたくないと思うあまり、未来は茜音に対抗心を燃やしていた。

 しかし、偶発的な事故とはいえ、未来は茜音の命に関わる問題に直面し、二人の想いの深さを知った今は、妹分役としての関係に収まっている。

 そんな三人の関係も落ち着いたことから、表面上は落ち着いたように見える茜音にも悩みがある。