「そっか……。未来ちゃんにとっては初めての経験だったんだね」

「一応、珠実園でも誕生日会はやるんだけど、何人かまとめてだし。たぶん本当の誕生日は春先のはずなんだ。でも、自分の誕生日専用にやってあげたことはなかったな」

 最後に入浴した茜音がバスルームを片付けていた。まだバスタオルを体に巻き付けただけの姿だ。直前の健は茜音に頼まれて話し相手になっていた。それも脱衣所のドアに背中を向けて座っている。

「健ちゃん、今日は未来ちゃんに告白されたの……?」

「あ? うん……。でも、あの子も分かってるみたいだったから、僕も正直に言ったよ。僕にはもう茜音ちゃんがいるって」

「そっか……。分かってくれたかな?」

「うん、大丈夫だと思う」

 そのときの未来の気持ちを想像すると、誰も悪いわけではないのだけど、茜音も申し訳ない気分になってしまう。

「未来ちゃん、幸せにしてあげようね。わたしたちで」

「うん、そうだね。いろいろ迷惑かけることになってごめんね」

「ううん。お父さんもお母さんも分かってくれたよ。だから、未来ちゃんを連れて帰っても平気だよ。わたしに妹が出来たって喜んでるみたいだったぁ」

 未来へのプレゼントは、健に買ってもらったパジャマだけではなく、もっと大きな物が彼女には用意されていた。

 茜音とうち解けることが出来た未来に、茜音はプレゼントを考えていた。その内容とは、茜音の家族の一員として、茜音がいるときはこの家にも、普段生活しているマンションの方にも自由に来て構わないということだった。茜音の今の両親である片岡夫妻もそれを快諾し、一度顔は合わせてある。

「まぁ、跳ねっ返りなところもあるかもしれないけど、妹分としてみてやってよ」

「うん」

 突然、茜音が内開きの扉を開けたので、扉にもたれかかっていた健は、後ろ向きに倒れ込んだ。

「あうぅぅ。健ちゃん重いぃ」

「いってぇ……。あ、ごめん!!」

 健は仰向けに倒れ、床にぺたんと座り込んだ茜音の太ももの上に頭が乗っかっている状態だったから、ほんのり上気した体にバスタオルだけの茜音を見上げる格好になってしまう。

「はうぅ。もぉ、こういうのは二人だけの時だけねぇ。怪我しなかったぁ?」

 大急ぎで着替えてバスルームを出ると、健の寝床になるリビングを含め、1階の明かりは皆消えていた。

「今日は、一人でこっちになってごめんね……」

「気にするなって。それよりも未来を頼むよ。いつもなかなか寝付けないんだ」

「うん、おやすみぃ」

 窓から差し込んでくる明かりの中でも分かるくらい顔を赤らめた茜音は、そっと健にキスをしてからリビングの扉を閉めた。