窓から見える風景が夕焼けから夜に変わる頃にようやく二人が帰ってくる。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった」

「遅ぉぃ! みんな腹空かしてるんだぞぉ」

 さっきから鳴いているお腹の虫を押さえきれなくなっていた菜都実がかみつく。

「はいはぃ~、はやく始めよぉ。未来ちゃんも早く上がってぇ」

 菜都実に健が謝りながら奥へ消えていく。一人残されていた未来に茜音は声をかけた。

「はぃ……」

 未来がこの家に来るのは初めてだった。彼女が聞いていた茜音が今両親と住んでいる住所は分譲のマンションで、茜音の家でパーティというからにはそちらで行われるものだと思っていたからだ。

 それがまさか茜音自身が所有する戸建ての家の前に来て、その話を健から聞いたときは言葉が出ないほど驚いた。

「凄いですねぇ……」

 あまり他の家に遊びに行ったことがない未来だから、茜音の整理した家の中を見てため息をついている。

 そもそも、同年代の佳織や菜都実も茜音のセンスの良さには文句を付けられないほどだったから、未来がこのような反応を示したのも無理はない。

「ほらほらぁ、みんな集まらないと始まらないじゃない」

 リビングでどうしていいか分からずぽかんとしている未来を菜都実が呼んだ。

「茜音、準備は大丈夫なん?」

「えっとぉ、椅子が足りないから持ってこなくっちゃ……。健ちゃぁん……」

 自分の部屋の机から椅子を持ってきてもらい、ようやく全員が席に着いた。

「じゃぁ、よろしくぅ」

 そこで司会を健に任せる。

「それじゃぁ、未来。今日はおまえが主役だ」

「えっ?」

 健が頷くと、茜音は冷蔵庫からまだナイフが入っていないケーキを取り出してきた。

「あっ……」

 未来の声がそこで消える。

「未来ちゃんこれまで誕生日会を開いたことないって聞いたからね。これまでの分まとめてだから腕によりをかけて作っちゃいましたぁ」

 白いショートケーキの上にイチゴが並べられ、真ん中にはHappy Birthday!の文字がチョコレートパイピングで書かれている。そして、上に立てられているろうそくは15本。

「え、今日じゃないよ……」

「細かいこと気にしない!」

「このパイピングは菜都実の力作だよぉ」

「ま~、店でやるかんねぇ。さ~、さっさと始めようぜぇ」

 照れ隠しをするように菜都実はろうそくに火を付けた。

「お誕生日おめでとぉ~!」

「お~し、一息で消すんじゃぁ!」

「オーバーだねぇ」

 しかし、未来は大まじめに大きく息を吸い込んで一気に全てのろうそくを消しきった。

「わぁ~、すごぉい」

 留守番の三人が作った料理を平らげ、気がつくとすでに最後のバスも終わってしまっている時間になっていた。

「あちゃ、今日は車で来てないんだよな……」

「みんな、泊まっていきなよぉ。ベッドとソファとか使えば全員寝られるから」

 茜音は最初からそれを想定していたようで、いつの間にか入浴の準備も終わっている。

「そっか。それじゃぁお言葉に甘えて」

 菜都実と佳織が浴室に消えると、茜音は一人でキッチンの後片付けをしていた。

「未来ちゃん、今日買ったのが早速役に立つね」

「あ、そうだね」

 背後でそんな二人の会話が聞こえる。

「へぇ? 何を買ってもらったのぉ?」

「新しいパジャマ買ってもらったの。今までのがだいぶ小さくなっちゃったから」

「そっかぁ。育ち盛りだもんねぇ」

 嬉しそうに頷く未来に風呂を譲り、茜音は家の戸締まりを始めた。