【茜音・高3・夏休み】
片岡家の深夜。リビングには夫婦の二人が残っていた。
2日前、娘の茜音は10年前に離ればなれになった幼なじみの彼との再会の旅に出発した。高校3年生になったとは言え、やはり女の子一人旅というのは心配だった。
しかし、彼女の思いの深さは昔から知っていたし、茜音を福祉施設から引き取るときの条件として彼女がその為の行動をとがめないということが含まれていた。
もしダメだと言ったところで、当時わずか小学2年生という時代に施設を飛び出し、彼と駆け落ちをしてしまった前科を持つ茜音を止めることはできないだろう。
最後に出発するにあたって、彼女は両親に宛てた手紙を残していった。
しかもその中身は二人への感謝の気持ちを綴ったもので、最後には仮に戻らなかった場合にも探さないで欲しいと結んである。
いくら寛容な二人といえども、これには慌てた。10年間を一緒に生活し、片岡家の娘として育ててきただけに、ここで失うというわけにはいかない。
すぐにも探しに行こうと思ったところで手掛かりもない。友人たちが探し出して来るという言葉を信じて待つことになった。
当日は連絡もなく気が気ではなかったが、翌朝茜音本人から連絡があり、無事に再会できたという報告を受けた。
先ほど帰ってきた茜音から喜びと詫びの話を受け、すでに彼女は自分の部屋で床に着いている。
「茜音、よく頑張ったなぁ」
「そうですね」
コーヒーを飲みながら、娘の寝室の方を見やる。何も音がしないことから、完全に眠ってしまっているようだ。
「そろそろ、そのときが来たようだな」
「そうですね。そろそろ茜音に返しましょうか……」
沈黙を破って、二人はうなずいたが、その顔は少々寂しそうに見えた。
翌日の夕方、友人の家で経営する店でのアルバイトを終えて帰ってきた茜音に、二人は夕食を囲んだ席で言った。
「茜音、次の土日は空いているか?」
「え、えとぉ……、土曜日はちょっともう……」
「あら、早速彼氏とデート?」
「あ、あうぅぅ。うん……」
顔を真っ赤にしたあまりにもストレートな反応に、両親も笑った。
早い子では小学校の頃からボーイフレンドを作ったりするこのご時世で、茜音はこれまで一度もそういうことが無かったから、家族からも年頃になった娘のこんな反応は新鮮だった。
「で、でもぉ、日曜日は大丈夫だよぉ」
これまでは土日は探索の旅行か旅費稼ぎのバイトでほぼ埋まっていたが、夏休み中ということや、せっかく再会できた二人への配慮もあり、平日が中心のシフトが組まれている。
「そうか。それなら、日曜日は三人で出かけるから、予定を空けておいてくれ」
「はぁい。遠くじゃないよね?」
「あぁ。近くだから明るくなってからゆっくりだ。日曜日に朝帰りしてきても大丈夫だぞ」
「そ、そんなことしないよぉ」
食卓は和やかな雰囲気だ。先日の前科2犯目ができてしまっても、何も原因がなくなった今の茜音が無断での外泊や朝帰りをするとは誰も思っていない。
それでも、つい先週とは全く違う嬉しそうな顔をしている娘をみると、少しくらいからかってみたくもなった。
「まぁ、ちゃんと紹介してくれてからにしてな」
「うん、もう少し健ちゃんと話してから、日を決めるよぉ」
若いカップルのこれまでを知っている方としては、それくらいの事で娘を拘束したくは無かったし、茜音からも以前から両親にはきちんと紹介すると言われている。
そもそも両親としては、茜音が満を持して紹介してくる彼を拒むことなど最初から考えていなかった。
それに、行く行くのことを考えれば、そのときから茜音を彼に預ける準備を始めなければならないと決めていた。
茜音が二人のもとにやってきて家族になってから今年で10年。家族三人でお祝いをしようとは前々から決めていたことだ。
それが次の週末にあたる。その日が楽しみでもあり、またその日にやらなければならないことを考えると少し辛くも思えた二人だった。
片岡家の深夜。リビングには夫婦の二人が残っていた。
2日前、娘の茜音は10年前に離ればなれになった幼なじみの彼との再会の旅に出発した。高校3年生になったとは言え、やはり女の子一人旅というのは心配だった。
しかし、彼女の思いの深さは昔から知っていたし、茜音を福祉施設から引き取るときの条件として彼女がその為の行動をとがめないということが含まれていた。
もしダメだと言ったところで、当時わずか小学2年生という時代に施設を飛び出し、彼と駆け落ちをしてしまった前科を持つ茜音を止めることはできないだろう。
最後に出発するにあたって、彼女は両親に宛てた手紙を残していった。
しかもその中身は二人への感謝の気持ちを綴ったもので、最後には仮に戻らなかった場合にも探さないで欲しいと結んである。
いくら寛容な二人といえども、これには慌てた。10年間を一緒に生活し、片岡家の娘として育ててきただけに、ここで失うというわけにはいかない。
すぐにも探しに行こうと思ったところで手掛かりもない。友人たちが探し出して来るという言葉を信じて待つことになった。
当日は連絡もなく気が気ではなかったが、翌朝茜音本人から連絡があり、無事に再会できたという報告を受けた。
先ほど帰ってきた茜音から喜びと詫びの話を受け、すでに彼女は自分の部屋で床に着いている。
「茜音、よく頑張ったなぁ」
「そうですね」
コーヒーを飲みながら、娘の寝室の方を見やる。何も音がしないことから、完全に眠ってしまっているようだ。
「そろそろ、そのときが来たようだな」
「そうですね。そろそろ茜音に返しましょうか……」
沈黙を破って、二人はうなずいたが、その顔は少々寂しそうに見えた。
翌日の夕方、友人の家で経営する店でのアルバイトを終えて帰ってきた茜音に、二人は夕食を囲んだ席で言った。
「茜音、次の土日は空いているか?」
「え、えとぉ……、土曜日はちょっともう……」
「あら、早速彼氏とデート?」
「あ、あうぅぅ。うん……」
顔を真っ赤にしたあまりにもストレートな反応に、両親も笑った。
早い子では小学校の頃からボーイフレンドを作ったりするこのご時世で、茜音はこれまで一度もそういうことが無かったから、家族からも年頃になった娘のこんな反応は新鮮だった。
「で、でもぉ、日曜日は大丈夫だよぉ」
これまでは土日は探索の旅行か旅費稼ぎのバイトでほぼ埋まっていたが、夏休み中ということや、せっかく再会できた二人への配慮もあり、平日が中心のシフトが組まれている。
「そうか。それなら、日曜日は三人で出かけるから、予定を空けておいてくれ」
「はぁい。遠くじゃないよね?」
「あぁ。近くだから明るくなってからゆっくりだ。日曜日に朝帰りしてきても大丈夫だぞ」
「そ、そんなことしないよぉ」
食卓は和やかな雰囲気だ。先日の前科2犯目ができてしまっても、何も原因がなくなった今の茜音が無断での外泊や朝帰りをするとは誰も思っていない。
それでも、つい先週とは全く違う嬉しそうな顔をしている娘をみると、少しくらいからかってみたくもなった。
「まぁ、ちゃんと紹介してくれてからにしてな」
「うん、もう少し健ちゃんと話してから、日を決めるよぉ」
若いカップルのこれまでを知っている方としては、それくらいの事で娘を拘束したくは無かったし、茜音からも以前から両親にはきちんと紹介すると言われている。
そもそも両親としては、茜音が満を持して紹介してくる彼を拒むことなど最初から考えていなかった。
それに、行く行くのことを考えれば、そのときから茜音を彼に預ける準備を始めなければならないと決めていた。
茜音が二人のもとにやってきて家族になってから今年で10年。家族三人でお祝いをしようとは前々から決めていたことだ。
それが次の週末にあたる。その日が楽しみでもあり、またその日にやらなければならないことを考えると少し辛くも思えた二人だった。