「ねぇ健ちゃん……。2ヶ月、ごめんね。忙しいときなのに」

 出発の前日、二人はいつもどおりに並んでベッドに入っていた。

「大丈夫。みんないってらっしゃいって言ってくれたし。この春卒園の子たちの最後までには帰ってくるわけだし」

 珠実園のメンバーも、茜音が助っ人として音楽コンクールに出場することは知っていたものの、まさか優勝トロフィーを持って帰るなどとは思っていなかったから、「ひとまず」と園に寄って、テーブルの上にドンとおかれたときには、歓声と納得の声が半々だった。

 高校3年生の時にみんなの度肝を抜いた彼女の力量なら、この結果は当然だというのが理由だ。

 同時に、電車の中で話していた茜音の研修の話題が発表される。

「茜音先生、戻ってきてくれるんですよね?」

「うん、どんな形でも必ず戻るよ。みんなの晴れ姿見なくちゃね」

 茜音が帰ってくるのが3月の頭だから、せめて各学校を卒業する子どもたちの晴れ姿を見届けたいと思っていた。

 二人だけになったとき、茜音は健にだけ本音を漏らす。

「それもそうなんだけど……。18歳でもう一回会えてから、2ヶ月間も会えないなんて初めてなんだよ」

「そうだったか……。もう茜音ちゃんとは何年もずっと一緒にいる気がしていた。あの10年間なんかなかったみたいに」

「わたしもそうなんだよ……」

 いつも隣にいるようになって、もう2年以上が経つ。茜音にいつでも会える。そんな環境に慣れきってしまっていることに気づいた。

「だから、この2ヶ月の時間が怖い。帰ってきたら、わたしの居場所がなくなっちゃうかもしれないって思うと怖いよ。健ちゃん、もっとわたしって頑張らなくちゃいけないのかなぁ」

 仕事に追われる毎日。確かに落ち着くまでは頑張ろうという約束はした。そして、茜音はそのための準備を着実に進めてきてくれた。

 偶然とはいえ、留守を守ることになるけれど、2ヶ月彼女と離れて暮らさなければならない。

 二人が離れて過ごした10年間からすればあっという間かも知れない。それでも、もう一度気持ちを確かめ合って二人三脚で歩いていくことを約束した茜音をそろそろ安心させてやりたい。

「茜音ちゃん。約束する。僕はこの2ヶ月で準備をするよ。茜音ちゃんとずっと一緒にいられるように」

「健ちゃん……。茜音、変わっちゃうかも知れないよ? そんなわたしでも、隣にいさせてもらえるの?」

 嬉しそうに涙を流した茜音の頬にキスをする。

「茜音ちゃんは変わらない。きっと2ヶ月したら、僕が心配するくらい凄い女の子になって帰ってくると思う。僕はそんな茜音ちゃんを予約したい」

「うん、予約されちゃったぁ。空港まで迎えに来てくれる?」

「もちろん。明日も行くよ」

 その日も、茜音は健の手を繋ぎながら目を閉じた。