「本当に無関係の私たちが一緒でいいの、茜音?」

「うん。ちゃんと許可もらったよ。菜都実のお父さんにはあとで謝らなくちゃ……」

 夏休みは菜都実の自宅でもある『ウィンディ』は目の前の海岸線もあって書き入れ時だ。

 娘の菜都実はもちろん、佳織や茜音も用事がない日は仕事を入れていた。

 それを突然2泊3日の空白を作ってしまったのだから。影響がないわけがない。

「夏休みはいつもどこにも連れていけないから、行ってこいって」

 どうやら、行った先でのお土産を買って来ることで上村ファミリーでは落ち着いているらしい。


 約束していた水曜日の夕方。茜音に菜都実と佳織を加えたいつもの三人組は2日間の宿泊の用意を持って珠実園に現れた。

「おぉ、こういう感じなんだ」

「まぁねぇ。ここは独立型だね。教会に併設とかいろいろな形があるけど。みんな最後には自立させるって目標は同じような感じかな」

 二人とも茜音から施設の様子は聞いたりしているが、実際に中に入るのは初めてだった。

 二人の挨拶が終わると、茜音の時と同じように人なつっこい連中が取り囲む。

 もちろん、二人の名前は茜音の旅の立役者として知れているから、健が知らない茜音の探索記のエピソードはいくらでも出てくる。

「まー、この連中なら大丈夫だわぁ」

 今は誰も入っていない部屋を借り、風呂上がりの菜都実は上機嫌だ。

「ずいぶんお風呂長かったじゃない。遊ばれてたの?」

「まーね。思い切り遊ばれちゃったわ」

 佳織は茜音と二人で明日の用意を進めていた。

 総勢二十人近く、しかも下は小学校低学年、上は高校生までが一度に動くには本当ならバスの方が都合がいい。

 しかし健に言わせれば、自分で電車にも乗れないのではあとあと困るということらしく、毎年この移動は電車やバスなど公共機関を使うとのこと。


 翌朝7時には出発することになっているので、準備は今の内にやっておく必要がある。

「まぁ、茜音が悩んでるって言うから、助っ人に来たけどね。明日じっくり聞かせてもらうわよ」

「うん、本当にごめんね。忙しいのに無理言って……」

「面白そうだからいいじゃん」

「考えたらこれ私の課題なのに……。健ちゃんが、二人もサポートで入ってくれたって報告に書いてくれるって」

「なるほど、昼間はここの職員なんだ」

「うん。今は学校に行っている時間だからね」

 夕方5時に仕事を切り上げ、支度をしてから4年間の夜間高校に通っている。

「苦労人してるんだね。でも、茜音の彼氏だもん。しっかりしていて安心したよ」

「明日は朝早いから、早く寝ておいてね」

 二人を先に寝せるために三人分の布団が用意されている部屋に案内する。

「茜音は?」

「うん、もう少し起きてる。小さい子たちがちゃんと寝ているかの見回りもあるから……」

「菜都実、先に寝よ」

 佳織がウインクをして菜都実の背中を押していく。

 茜音が健の帰りを待っているのは間違いないからだ。


「ただいま……。茜音ちゃん?」

 普段は暗くなっているリビングに照明がついている。

「お帰りなさい。お風呂温めてあるよ」

 言われるままに、部屋に荷物を置いて戻ってくると、きちんと畳まれているパジャマを手渡された。よく見ると、取れかかっていたボタンも縫いつけ直されてある。

 その日、茜音が最後に一回りのチェックを終わらせて床についたのは、子供たちがみんな寝静まって珠実園の明かりが全て消えるのと同じだった。