翌日、健と茜音は仕事を休んだ。

 茜音はすっかり憔悴していたし、健もそんな彼女を置いていけなかった。それに、佳織が結果を持ってくるとなれば尚更だった。

 夜にチャイムが鳴り、健に促されて仕事を終えた佳織が入ってきたときも、茜音は表情を戻すことが出来なかった。

「茜音……」

「ごめんね、佳織……」

「分かってる。見つけちゃったのね」

 親友のこんな顔は見たくはなかった。でも、自分で見つけてしまったのなら調査結果を話すことも出来る。

「佳織さんはその日記を知っていたんですか?」

「ううん。でも、調べさせてもらったの。茜音の戸籍。ご両親に遡っていくと、どちらからも除籍になってた。婚姻の事実すら消されていた。だから、分かったのよ。これまでの謎と今回の騒ぎの原因が」

 つまり、両家とも二人の子どもがいたことを放棄したのだ。婚姻することで、新しい籍を作ることが出来る。そこで、二人の記録を消してしまったのだ。

 これなら、仮に茜音の父親である秀一郎に姉がいたとしても、データ上では無関係となってしまう。

「なんてこった……。僕と同じか……」

 健も自分の戸籍が浮いていることを知っている。今の保護者は珠実園の園長になっているからだ。

「でも、それならなんでずっとそっとしておいてくれなかったの?」

「それも見当がついたよ。茜音……」

 佳織は1枚の通知書と1冊の通帳を見せた。

「茜音、この通帳見たことがある?」

「知らないなぁ。佐々木茜音で作られてる?」

 茜音がいつも利用しているのとは別の銀行の通帳。しかし、途中で名前が変わっているため、苗字の修正履歴が印字されていた。

「これ、今のご両親が、茜音が困った時用に預かっていたって。お嫁に行くときに渡す予定だったそうよ」

 最後に通帳記帳されたのが先日だが、その中身を見たときに。健も茜音も息をのんだ。

「すごい……」

 恐らく、普通に暮らしていけば、この先茜音も健も働く必要がないだけでなく、十分すぎるほどの余裕があるだろう。

「そのお金はね、佐々木のご両親の貯金と生命保険。どちらも受取人は茜音だけに指定してあるの。このお家もすべて茜音名義になるようになってた。これを知っちゃえばね……」

 法務局で生前の二人が残した遺言書の写しを見せてもらったときに、佳織もため息をついたのを思い出す。

 あれほど早くとは予想していなかったにせよ、彼女の両親は自分たちに万一のことがあったときのことを常に考えてあったのだと。

「茜音、ご両親はちゃんと今でも茜音のことを守ってくれているんだよ。あんたが幸せになる時に苦労しないようにって」

「そういうことか……」

 本当はこういう問題に他人が口を出せるものではない。


「健ちゃん、佳織。連絡取ってくれる? 会いますって」

「茜音、大丈夫なの? もう成人なんだし、拒否もできるのよ?」

 こんな茜音に、大人の事情をぶつけたところで、傷つくのは彼女自身だ。

「ううん。ちゃんと自分で言わなくちゃ。それでハッキリさせる」

「分かった。その代わり私も公的証人として行く。いいでしょ?」

 佳織は親友の手を握った。