【茜音 22歳 秋】
「茜音先生、先生をご指名のお客さまなのですが、お通ししてもよろしいですか?」
「は、はぃ。こんな時間に?」
児童福祉施設、珠実園の職員室。
今日の仕事を終え、交代で入ってくれる夜勤の先生への引継も終わらせた。
帰り支度を始めていた片岡茜音は受付からの電話を受けた。
時間はもう夕方の5時を回っている。
この珠実園は、2年前の春に大幅なリニューアルをした。
それまでは児童保護施設という役割を中心としていたが、その時から地域の児童センターを併設することになって、子育て支援などにも力を入れた市の施設として稼働している。
もちろん、もともと入居している子どもたちの中には家族との関係が上手くいかずに預けられているなどの境遇などもあるため、積極的に関与させるようなことはしていない。
本人の興味や希望がある場合は、支援センターでの活動に学業や生活に支障がないように手伝いをお願いする程度に留めている。
茜音は短大を卒業した後、この珠実園の職員として正式に採用され、今ではすっかり「あかね先生」と定着して子どもたちにも人気だ。
心理カウンセラーの資格や、幼稚園の教員免許を持つ彼女の役目はなかなか忙しい。
平日は珠実園に入居している中でも幼い子どもたちの教室を開催したり、地域の未就園児を対象にした教室。
それらに伴う相談や市の保健師などとの打ち合わせなど毎日は予想以上に多忙だ。
休日も可能な限り入所している子どもたちとの時間を大切にした。
もちろん、これは珠実園の次期園長であり、茜音の婚約者でもある松永健の協力と理解があってのことだ。
今日は金曜日で、明日は久しぶりの完全オフをもらっている。
昨日の夜、熱を出してしまった子の看病をしていたので、昨日は家に帰らずに療養室で仮眠をしただけだ。
まだ22歳の若さがあると言っても、夕方になってはあまり他人に見せられる顔ではなかったのだけれど。
「お待たせしました。片岡です」
応接室に待っていたのは、二人の男性で、片方は茜音もよく知っている人物だった。
「小峰さん!」
「お久しぶりですね。お疲れのところ申し訳ありません」
初老の男性は、珠実園の運営や子どもたちの夏休み遠足などでも世話になる。また、存命だった頃の茜音の両親と一緒の楽団にいたこともあり、当時の二人だけでなく、幼い頃の茜音のことも覚えていた。
「実は、テレビである企画があがりまして、その関係で私のところにお話が来たのですが、私一存では決めかねる内容でして、これはお嬢様の判断をいただきたいと思いまして」
「はぃ……」
「あ、あの……、こちらの方は、あの佐々木茜音さんなんでしょうか?」
小峰との会話を聞いていたもう一人の男性が目を丸くする。
「ご紹介が遅れましたな。こちらがお宅さんたちが探していた佐々木さんご夫婦のお嬢様です。丁重に頼みますよ」
話を聞いてみると、テレビの取材と出演協力という話だった。
「茜音先生、先生をご指名のお客さまなのですが、お通ししてもよろしいですか?」
「は、はぃ。こんな時間に?」
児童福祉施設、珠実園の職員室。
今日の仕事を終え、交代で入ってくれる夜勤の先生への引継も終わらせた。
帰り支度を始めていた片岡茜音は受付からの電話を受けた。
時間はもう夕方の5時を回っている。
この珠実園は、2年前の春に大幅なリニューアルをした。
それまでは児童保護施設という役割を中心としていたが、その時から地域の児童センターを併設することになって、子育て支援などにも力を入れた市の施設として稼働している。
もちろん、もともと入居している子どもたちの中には家族との関係が上手くいかずに預けられているなどの境遇などもあるため、積極的に関与させるようなことはしていない。
本人の興味や希望がある場合は、支援センターでの活動に学業や生活に支障がないように手伝いをお願いする程度に留めている。
茜音は短大を卒業した後、この珠実園の職員として正式に採用され、今ではすっかり「あかね先生」と定着して子どもたちにも人気だ。
心理カウンセラーの資格や、幼稚園の教員免許を持つ彼女の役目はなかなか忙しい。
平日は珠実園に入居している中でも幼い子どもたちの教室を開催したり、地域の未就園児を対象にした教室。
それらに伴う相談や市の保健師などとの打ち合わせなど毎日は予想以上に多忙だ。
休日も可能な限り入所している子どもたちとの時間を大切にした。
もちろん、これは珠実園の次期園長であり、茜音の婚約者でもある松永健の協力と理解があってのことだ。
今日は金曜日で、明日は久しぶりの完全オフをもらっている。
昨日の夜、熱を出してしまった子の看病をしていたので、昨日は家に帰らずに療養室で仮眠をしただけだ。
まだ22歳の若さがあると言っても、夕方になってはあまり他人に見せられる顔ではなかったのだけれど。
「お待たせしました。片岡です」
応接室に待っていたのは、二人の男性で、片方は茜音もよく知っている人物だった。
「小峰さん!」
「お久しぶりですね。お疲れのところ申し訳ありません」
初老の男性は、珠実園の運営や子どもたちの夏休み遠足などでも世話になる。また、存命だった頃の茜音の両親と一緒の楽団にいたこともあり、当時の二人だけでなく、幼い頃の茜音のことも覚えていた。
「実は、テレビである企画があがりまして、その関係で私のところにお話が来たのですが、私一存では決めかねる内容でして、これはお嬢様の判断をいただきたいと思いまして」
「はぃ……」
「あ、あの……、こちらの方は、あの佐々木茜音さんなんでしょうか?」
小峰との会話を聞いていたもう一人の男性が目を丸くする。
「ご紹介が遅れましたな。こちらがお宅さんたちが探していた佐々木さんご夫婦のお嬢様です。丁重に頼みますよ」
話を聞いてみると、テレビの取材と出演協力という話だった。