ライブ時間を終えて、来てくれたお客さん一人ひとりを見送る。
「みんな、頑張ってね」
「たまには帰ってきてよ?」
「はい、ここ実家ですし」
「ありがとうございました」
「茜音さん、またお洋服作らせて下さいね」
「もちろん。萌ちゃんにはこれからもずっとお世話になるよ。ここよりもお家の方が近いもんね」
本当は夜の部までいたいけれど、家の食事当番という萌と固い握手をして、見えなくなるまで手を振った。
扉を閉めて、振り返ると、まだ店内には多くが残っている。
「はぁ~、終わったぁ!」
「あー、緊張した」
「お疲れさま。みんな綺麗になったわね」
店内に残っているのは、茜音がこの数年間で世話になった面々だ。
「理香さん、まだまだですよぉ」
「どうぞぉ」
エプロン姿に戻った茜音は、いつもの自分たちのテーブルに座っていた二人にも声をかけた。
「遠いところ、ありがとうね」
「茜音ちゃん、会わないうちに凄くなってたんだね」
この日のために高知から来てくれた河名千夏と西村和樹の二人。遠いので来られるか分からなかったけれど、茜音が個人的に一番来て欲しかったのがこの千夏だったから。
「そんなことないよぉ。あの頃から変わらないはずなんだけどなぁ」
「うそだぁ、別人だよ」
あの夏に初めて出会ってから、いつも一緒に泣いたり笑ったりしてきた千夏は茜音には特別な存在だ。
だから、健と茜音はこの千夏たちに特別なお願いをしていた。
学校を卒業したら、新生の珠実園に来て欲しいと。
国家資格を持ち、正式な看護士がいてくれるということだけでも、大助かりになることは自分たちの経験で身をもって分かっているからだ。
「茜音ちゃん?」
「うん」
「あのお話なんだけどね? 和樹も一緒に来てもいいかな?」
千夏の真剣な顔で、茜音もすぐに状況を理解した。
「健ちゃん? ちょっといい?」
茜音の代わりに店の手伝いをしていた健を呼び、すぐに相談をする。
「もちろん、男手もたくさん必要だし、家賃も補助できると思うから、二人とも来ていただけるなら、大歓迎だよ」
「うん、私たちを助けてくれた茜音ちゃんのお願いだし、高知だとなかなか職探しも上手くいかなかったりするから。でも、私が卒業するまで1年、和樹も2年あるけど、それでもいいの?」
それでもと、健は頷いた。
「僕たちの仕事は目立たないし、裏方だということには間違いない。でも、たくさんの子どもたちの親として、責任ある仕事なんです。だから、絶対に信頼できるメンバーしか選びたくないからお願いしたいんです。そのためなら1年2年は大丈夫です」
まじめな顔をしたあとに、健は笑った。
「茜音ちゃんが、千夏ちゃんならいい先生になれるって推したんですよ」
「なんだか、初めて会ったときから、茜音ちゃんてほんと、人生変えちゃう力があるよねぇ。いいよ。茜音ちゃんたちとなら、一緒にやれると思うよ」
健も自分の体制で落ち着きを持てるようになるまで、数年かかるだろうと思っていたから、このくらいは誤差として考えることにしていた。
「ねぇ、考えてみれば、茜音のチームって、結果的に全員相手見つけてるんだね」
各テーブルに飲み物と食事を配り終わったあと佳織が気付いた。
「え? 未来ちゃんは?」
「今日は来られなかったけど、それもクリア済み」
「そうか……、それって凄くない?」
「みんな、頑張ったからだよ。それに、みんな次に進んでるんだよ。ね、菜都実?」
いまここに残っているのは、何を話しても平気なメンバーしかいない。
「そうだなぁ、やっぱリーダーが半端じゃないから。これからも頼むわよ?」
「へっ? わたしぃ?」
「みんな、茜音を中心にして集まったんだもん。あんたの求心力は凄いのよ。だから、茜音がこれからもずっとリーダーなの」
「そ、そっかぁ……。みんなそれでいいの?」
ぐるりと見回してみると、みんな納得しているとばかりに笑顔で頷いている。
「えっと、じゃぁ。まずはみんなに謝るところからだね。健ちゃん来てくれる?」
二人で前に立ってから、少し目をつぶって考える。
「ここにいるみんなには、本当にお世話になって、迷惑もたくさんかけてしまいました。こうやって、わたしたちが二人で並んでいられるのも、本当にみんなのおかげです。ありがとうございました」
「茜音ちゃんがそれだけピュアだったのよ。みんなが助けたくなっちゃうくらい。それがあなたの魅力だから」
「理香さん……。せっかくのこの繋がり、わたしには一生の宝物です。これからも、いろいろ相談させてもらうことも、心配させてしまうことも、きっとたくさんあると思うけど、みんな、一緒にいてください……」
深々と頭を下げる二人に、いつまでも拍手が鳴り止まなかった。