それぞれの役割分担や当日の配役などが驚くほど早く進んでいく。
「片岡先輩が衣装作るんですか?」
「わたし一人だと限界もあるので、何人かで集まって作ります」
「あんまり片岡たちに負担をかけるなよ? これを当時作ったとき、三人とも家庭科室に土日も入って出てこなかったんだからな」
結局、先生も含めて当時のバージョンアップとして再現されることになった。
会議の後、私服に戻った三人と未来と翔太が同じ帰り道を歩く。
「本当に、あんな大盤振る舞いして大丈夫なんですか?」
「だって、前回やってるからね。道具とかはお店の備品とか借りたりこっちで揃えるから。会場セットをやってもらえるだけで全然楽だよ」
「まぁ、未来ちゃん。このチームなんだから、それだけで終わるわけないって予想できるっしょ?」
「菜都実さん……、そうですよね。間違いなく他にもありますよねぇ」
自信たっぷりの先輩三人組に、未来は少々心配になったくらいだ。
ふたを開けてみれば、結果的に未来たちの心配は不発に終わった。
やはり、校内歴代1位を経験した主役たちを巻き込んだ効果は歴然だった。
男子に任された星空再現用のミラーボール作りと照明のセッティングは、中途半端なものは作れないと一生懸命に取り組んでくれたし、メニュー作りを担当した女子も負けられないと家庭科室を占拠して奮闘してくれた。
そこに前日の夕方、車で運ばれてきた機材を見て、翔太も未来も唖然とした。
「やっぱ、プロはすげぇよ」
「うん、頼んで良かったぁ」
衣装だけでなく、コーヒーやドリンクなどの食材、食器やサーバーなどの機材も菜都実の家から持ち込んでくれた。暗くなってしまう室内の補助照明として、お店にあるテーブルランタンを持ち込んでくれたので、未来たち生徒は登校するだけで良かった。
それに、茜音も家から電子キーボード、佳織もアコースティックギターを持ち込んでくれたので、未来たち二人がウィンディで経験した学校とはとても思えない独特の雰囲気が再現されると喜んだ。
当日は、茜音たち先輩三人組はそれぞれ厨房、ホール、演奏の持ち場に集中してくれた。
開場前に佳織が衣装替えが終わった全員を前にし呼びかけたのは、主役は2年3組のみんなで、自分たちは影の存在であること。
不安だったり、出来ないことはサポートするので、遠慮なく聞いて欲しいと語る。
最初は動きも固かったクラスメイトも、だんだん慣れて、2日目の一般公開日はキャラクターになりきって扮してくれた。
「久しぶりだったねぇ」
「やってることはいつもと変わらないんだけどな」
そこに、後夜祭から帰ってくる足音がバタバタと響いてきた。
「片岡先輩!!」
翔太がドアを開けて飛び込んでくる。
「だめだよ、みんな並んで!」
何事かと驚く三人の前に、ズラリと並び、翔太が賞状を差し出した。
「先輩方のおかげです。ありがとうございました!」
「よかったねぇ。みんなが頑張ったんだよぉ」
「そう、あたしたちは影武者だから。みんながよくやったよ」
荷物を菜都実の父が運転する車に載せて先に出てもらい、茜音たち三人と未来、翔太で駅まで歩く。
「みんな、衣装もらえて喜んでたな」
「それはそうだよ。自分専用に作ってもらえたなんて、みんな嬉しいよ」
使い終わった衣装は、回収したところで処分されてしまうだけだと伝えると、みんな口々に欲しいと言い出したので、それならばと希望者に渡していた。
「最初、田中が話を先輩のところに持っていったときには、こんな結果になるとは思っていませんでした。やっぱり、伝説になっちゃうくらいの先輩たちだったんですね。ありがとうございました」
駅まで戻ってきて、茜音と佳織は電車に、菜都実は再び歩いて家に歩いていく。
それを見送った未来は、隣の翔太の腕をつかんだ。
「どうした田中……」
未来が小さく震えている。
「田中、どうした?」
未来が目を伏せて、涙がこぼれた。
「と、とにかく、ゆっくり話せるところに行こう」
翔太は未来の腕を引いて駅とは反対の方向に歩いていった。