土曜日の4限目の時間は、特に教科を入れておらず、担任やその時のクラスの流れで活動をすることが出来る学活の時間。

 もちろんこの高校の卒業生である茜音たち三人に今さら細かく説明する話ではない。

「先生、お久しぶりでぇす」

 さすがに在校生ではなくなったので、来客用の玄関から入ることにする。

 そうは言っても、僅か2年前に学校中にその名前を轟かせた茜音の存在は誰もがまだ記憶に新しい。

「2年3組が卒業生に助っ人を頼んだって聞いてたけど、おまえたちか。さすがに目の付け所が違うな」

 先生たちも笑っている。やはりこの三人が加わればなにかをやってくれるという期待が今でも大きいのだろう。

 3限目の終了チャイムが鳴り、未来と翔太が迎えに来てくれた。

「先輩方、ありがとうございます。女子はかなり乗り気です」

 教室までの廊下を二人に先導されて歩いていく。途中ですれ違った生徒たちも、私服の三人が茜音たちだと分かると驚きの顔をしていた。

「隣の教室は許可をもらってます。着替えに使ってください」

「うん、ありがとぉ」

 学活授業時間が始まり、担任からクラスの催し物についての打ち合わせ時間となることが告げられて、翔太と未来に渡された。

「今年は、本当に凄い人たちに協力をお願いできることになりました」

 翔太が言い、廊下で待機していた茜音たちを未来が迎え入れる。

「えーっ!」

「まじ? 本人?」

「どこでお願いできたんだよ……」

 いろんな声が飛び交う。

「はいはいはい。見てのとおり、今年は片岡先輩、上村先輩、近藤先輩の三人にお手伝いをお願いしました。ここまでお膳立てしたんだから、みんなも中途半端じゃできないよ?」

 それまで企画に半信半疑だった生徒たちの熱が一気に上がったように感じられた。

「未来、先輩たちも一緒にやってくれるって事?」

「その予定です。先生の許可も取りました」

「でも衣装大変じゃない? あの先輩たちで大丈夫?」

 そんな会話があちこちで始まる。

「お待たせしました」

 挨拶のあとに一度下がっていた三人が再び姿を見せると、懐疑的な空気はあっという間に消え去った。

「先輩可愛い!!」

「これだけでも他のクラスは勝てねーよ」

「今でも片岡はやっぱり凄いな……」

 当時、茜音たちを担任してくれていた先生の一言が全てを物語っていた。

 アリスの衣装は、インターネット上で探せばいくらでも購入出来る。しかし体系や色までを着用する本人にあわせて作成するので、その雰囲気の一体感を既製品で出すのは難しく、衣装に着られてしまうコスプレ感が出てしまいやすい。

 茜音と言えども、身長は平均的にあるから物語に登場する7歳の少女ではない。もちろん黒髪でもある。キャラクターのモチーフと現実の両方を上手く使いながら、原作を損なわない雰囲気を引き出すのは、この三人に敵う者はいないだろう。

「片岡先輩、私たちもその服を着られるんですか?」

「はい。そのつもりです。役どころや個人の体型で少しデザインを変えるかも知れませんけど」

 茜音たちが仕掛けたのは、当時準備が間に合わなくて断念した、プラネタリウムを使って、屋外のようにイメージした中での喫茶室だった。

 あの当時で最も人気があったアリスの世界観はそのままにして、教室の中という概念を打ち消したかったが、原作物語の中にそのシーンがないとの理由で断念されている。

 衣装については男女ともにいくつかのパターンを用意すること。夜空の空間を作るので、暗幕やミラーボール、それ以外の装飾の準備をお願いしたいことなどが告げられた。