翌日の昼過ぎ、翔太が駅に着くと改札口で未来が待っていた。

 一人で落ち着かない様子だった彼女も、翔太の姿を見ると顔をほころばせる。

「ごめんね。お休みの日なのに」

 二人は海岸に向かって歩き出す。夏の気温も落ち着き、散歩するにはちょうどいい具合だ。

「今日はお昼からなんだ……」

 海沿いの道にある一軒のカフェレストランの前で未来は足を止めた。

 ピアノやギターの生演奏が流れていて、昼間だというのに店内は混み合っている。

 翔太もいろいろなお店に入ったことがあるが、この店は初めてだった。そして店の看板を見上げたときにハッと気付く。

 店の名前はウィンディ。やはり櫻峰の女子の間で聖地扱いされているスポットだ。

「こんにちは。空いてますか?」

「未来ちゃん、いらっしゃい。いつものところ空けてあるよ。お昼は済ませちゃった? じゃぁ、軽くおつまみ出しておくね」

 エプロン姿の店の女性が気楽に話しかけてきた。

「普段はもっと入りやすいお店なんだよ。こういう演奏の時は雰囲気変わっちゃうんだ」

 案内された席は、少し奥まったところにあるテーブル席だった。

「田中って、ここ常連?」

「常連ていうのはちょっと違うかなぁ……」

 席に座って改めて周りを見回す。派手では無いが装飾は一つ一つ選ばれているようで、居心地のいい空間だ。

 チェーン店ではない単独の店がこれだけ賑わっているのだから、こちらもやはり噂になるだけのことはあるのだろう。

 店内の小さなステージにはピアノと楽譜台がいくつか置かれていて、ダウンライトが演奏している二人を照らしている。

 音響設備もあるが、補助的に使われているだけで、静かな店内はその楽器の音を邪魔しないようにしているようだ。

「お待たせ。もうすぐ時間終わるからね」

 ドリンクとポテトなどのスナックを置いて、また仕事に戻っていく。

「本当に、今日はありがとうございました。いつも最後にするお馴染み2曲をお届けしてお開きにさせていただきますね」

 最後は伴奏をピアノ一本だけにして、二人とも聞いたことのある曲を弾き語りはじめた。

「聞いたことある……」

「うん、片岡先輩が一番大切にしている曲だから」

「えっ……?」

 絶句して、改めてステージを見つめた。

 てっきり、ステージ上のピアニストはどこかのプロ奏者でも来ているのだろうと思っていたが、よく見れば自分たちと姿や見た目の歳は変わらない。

 それにも関わらず、聞こえてくる歌声はとても自分たちに真似できるようなレベルではなかった。

「なんて先輩なんだ……。あの人が……」

 曲が終わって、拍手に送られてステージを降りると、店内の照明とブラインドが元に戻されて明るくなった。