「茜音ちゃん、これ、本当はまだ言っちゃいけないんだけどさ……」

 自信がないことを責めている茜音。健は意を決したように、彼女の両肩を持って話し始めた。

「ふえ?」

「僕は来年の春から、珠実園の管理人の勉強に入るんだ。だから、僕はあそこにずっといる」

「健ちゃん、それって、健ちゃんが園長先生になるってこと?」

「そうなるのはまだ先だけど、将来はそうしたいみたいだよ。だから、その時に誰が必要か言って欲しいって言われたんだ」

「うん」

 昨日、里見にも言われていた。最近は健が研修に多く出ていると。きっと何かが動き始めるにちがいないと。

「だから、里見さん、未来ちゃん、そして茜音ちゃんは絶対にって。園長笑ってたけどさ。あと、ときわ園の仲間も何人かね。だから、僕の将来には、茜音ちゃんがいてくれないと困るんだ」

「わたしで役に立つ?」

「茜音先生はもう合格だよ。みんな認めてる。そのままでいいんだ」

 幼稚園の教員資格や、セラピストなどの資格を持てば、傷ついた子どもたちの役に立てるかもしれない。そんな思いを持って選んだ進学先。

 健はその茜音を彼の設計図の一番真ん中にすでに据えていた。

「あとさ……。僕の隣にずっといてくれないかな……」

「ほんと? 本当に一緒にいてもいい?」

 涙でいっぱいの目で上目遣いに見上げる。こんな女の子を目の前にして、平常心を保っている方が難しい。

「うん。茜音ちゃん、時期が来たら結婚しよう。これ、それまでのお守りと男除け」

 上着のポケットから、小さな箱を取り出して、涙で濡れている左手の薬指に細いリングをはめた。

「だめだよぉ、こんなに高いものだよぉ」

「大丈夫。シルバーだから。それにお揃い。本物のエンゲージリングはもうちょっと貯めてからね」

 二人の同じ指に同じリングがはまった。

「ううん。これでいい。嬉しいよぉ。うん……。はぅぅ、ごめん……。涙が……止まらない……」

 一生懸命に笑顔を作ろうと頑張っても、目尻から次々に滴がこぼれた。

「もう、茜音ちゃん……」

 再び、彼女の唇を奪った。さっきとは違ってしょっぱい涙の味がする。

「ほら、クリスマスだよ。もう泣かない。ね?」

「うん、泣かない……。頑張る……。サンタさん来てくれたぁ。あっ、雪だぁ」

 窓の外にちらちらと白い物が舞っている。天気予報は悪くなかったので、一時的なものだろう。

 車の外に出て、展望台に走っていった茜音。

 眼下に見える夜景に白い影が舞い降りる。

「健ちゃん……」

 こんな寒さだ。二人の他は公園に誰もいない。

「なんだい?」

「今日をね、ちょっと気が早いけど、わたしと健ちゃんの婚約の日にしようよ。絶対に忘れないよ?」

「毎年ケーキが2個になりそうだなぁ」

「うん。まだまだ未熟者ですけど、よろしくお願いします」

「こっちこそ、よろしくね」

 白い天使たちが見守る中、二つの影が再び一つに溶け合った。