光琳学士院は書物の編纂、詔勅の起草などを行う皇帝直轄の部署だ。官吏登用試験である科挙で特に優秀な成績を収めた者が配属される場所としても知られる。そして、天嶮学士であった父──秀燕が働いていた部署でもあった。

(ここでお父様が──)

 玲燕は周囲を見回す。

 ここは倉庫なので実際にここで働いていたわけではないだろうが、仕事でここに来ることはあったかもしれない。
置かれている竹簡や巻物はかなりの年季が入っているように見えるが、手入れが行き届いており埃などは被っていなかった。

「玲燕、行くぞ」

 天佑に呼ばれ、玲燕ははっとする。

(いけない。ぼーっとしちゃった)

無意識に、ちょっとした感傷に浸って辺りを眺めてしまった。

「はい」

 閉じていた書庫の扉が開かれ、玲燕は眩しさに目を眇めた。

 玲燕は慣れた様子で歩く天佑のあとを追う。途中で何人かの官吏とすれ違ったが、玲燕が男装している妃であるとばれることはなかった。皇城には数多の官吏や女官がいる。その全員の顔まで、いちいち覚えていないのだろう。