玲燕はじとっと天佑を睨む。
 天佑との付き合いはまだ短いが、ここで「怖い」などと言えばずっと揶揄われるのが目に見えている。

(本当に、なかなかいい性格しているわよね)

 玲燕の視線に気付いた天佑が玲燕を見て視線が絡むと、天佑は顎をしゃくった。

「あまり時間がない。着替えてきてくれ。俺も官服に姿を変える」
「あ、そうですね。わかりました」

 玲燕が慌てて立ち上がりかけたそのとき、ころころと丸い実が床に転がり落ちた。先ほど、廊下で出会った女官にお裾分けしてもらい、玲燕が懐に入れていた茘枝だ。

「あ、いけない」
「これは? 茘枝か?」

 天佑は赤い実を拾い上げると不思議そうに見つめる。

「あ、はい。先ほど、いただいたのです」
「先ほど?」
「はい。桃妃様付きの女官に。桃妃様のご実家から持ってきて桃林宮に植えた木が実ったと」
「へえ、桃林宮の茘枝なのか」

 天佑は手のひらで転がしていた茘枝をまじまじと眺め、その皮を器用に剥く。そして、何を思ったのか中身を口の中に放り込んだ。

「え!?」