「あれ? 天……栄佑様、どうされたのですか?」
「どうしたもこうしたもあるか。中々戻ってこないから、どこに行ったのかと思ったぞ」

 眉を寄せる天佑を見上げ、玲燕は目をぱちくりとさせる。さほど長く話し込んでいたつもりもなかったのだが、そんなに時間が経っていただろうか?

「申し訳ありません」
「もうよい。急いで準備するぞ。皇宮の現場を見たいのだろう?」

 はあっと息をつくと、天佑は玲燕の隣をすり抜けて歩き出す。玲燕は慌ててその後ろを追った。
 先日、玲燕は天佑に『皇宮内で鬼火が現れた現場を見たい』と願い出た。そのため、天佑がその算段を付けてくれたのだ。

 菊花殿に戻ると、天佑に「これを」と手渡された。
 広げてみると、それは袍服だった。

「なんですか、これは」
「見ての通り、袍服だ」

 真顔で答える天佑の様子に、嫌な予感がする。

「まさか、私に男装せよと?」
「俺に丸一日以上少年だと勘違いさせたぐらいだ。官吏になりきるのもお手の物だろう」

 天佑は腕を組み、玲燕を見る。

 嫌な予感は的中だった。

「しかし、どこから後宮の外に出るつもりですか?」