一番最初に後宮入りした分、梅妃が受けた実家の期待はさぞかし大きかったことだろう。子は授かり物としか言いようがないので、少し気の毒に思える。

「そういえば、菊妃様はどんなお方なの? 私、一度もお見かけしたことがないわ」
「え?」

 翠蘭は興味津々の様子で、言葉に詰まる玲燕を見つめる。
 目の前にいる玲燕その人こそ菊妃なのだが、玲燕がいつも女官にしか見えない格好で歩き回っているので完全にただの侍女だと思い込んでいるのだ。

「桃妃様も、すごく菊妃様に会いたがっているのよ。侍女達が噂話をするものだから、どんな人かと興味津々なの。錬金術がお好きなんでしょう?」
「さようですか」

 玲燕は答えながら、苦笑する。
 お茶をするのは構わないが、玲燕が菊妃だと知られたらさすがにびっくりされてしまうかもしれない。

 暫く立ち話していると、廊下の奥から誰かが歩いてくる足音が聞こえた。翠蘭は慌てたように「あ、そろそろ行くね」と言い立ち去る。
 その後ろ姿を見送っていると、背後から名を呼ばれた。

「玲燕」

 振り返ると、そこには天佑が立っていた。