翠蘭は手に持っていたお盆の上に乗る小箱を開けると、ひとつ玲燕に差し出す。

「茘枝(ライチ)でございますか」
「あら。なんだ、知っていたのね」

 少しがっかりしたように翠蘭が口を尖らせたので、玲燕は口元を綻ばせた。

「故郷に、茘枝の木があったのです」
「茘枝の木? まあ、桃妃様とご一緒ね」
「桃妃様のご生家には茘枝の木が?」
「そうよ。これは、桃妃様のご実家から一本持ってきて、桃林宮に植えた木に実ったものなの」
「どうりで。真っ赤で、採れたての色をしております。こんな季節に珍しいですね」

 玲燕は翠蘭から手渡された茘枝を見つめる。
 その丸々とした実は、真っ赤に色づいていた。

 茘枝は痛みが早く、もぎ取ってから一日で色が茶色く変色してしまう。このように真っ赤な茘枝は、もぎたての証拠だ。
 故郷の東明にある林にも茘枝の木があり、毎年実っているのを見かけるともぎ取って食べたものだ。
 ただ、玲燕の記憶では茘枝の季節は夏だ。
 既に秋も深まってきたこの季節には珍しい。

「これは実りの季節が少し遅い品種なの」