「やったあ! すぐに準備させるわ。雪、お願いできる?」

 雪と呼ばれた侍女は「はい。すぐに」と笑顔で頷く。
 通された部屋には既に茶器が用意されており、よい香りが漂っていた。程なくして雪が運んできた菓子は、蓮妃が言うとおり流行の粉食だった。小麦を練った生地を焼き上げて作っており、遠い外国から伝わってきたものだという。

「たくさんあるからいっぱい食べてね」
「ありがとうございます」

 玲燕は礼を言い、棒状の生地をねじったような形に焼き上げた菓子をひとついただく。柔らかなそれは甘みを帯びていて、少し苦みのある茶とよく合った。

「美味しいです」

 天佑の屋敷に居候するようになってから粉食を何度か食べたが、やっぱり美味しい。故郷の東明にいる頃には一度も食べたことがなかったものだ。

「よかった!」

 蓮妃は玲燕の反応を見て、嬉しそうに笑う。

「新しく入宮した方が菊妃様でよかった。すれ違っても口も聞いてくれない人もいるから」

 蓮妃は菓子を頬張りながら、口を尖らせる。

「そうなのですか」
「そう。陛下にそれを言ったら、気にするなって仰っていたわ」

 玲燕は苦笑する。