凧は遊びでも使われるが、主な使い道は軍事目的だ。高く上げることで遠くからでも目視できるので、遠方にいる部隊とのやりとりに使用される。
 なので、凧の優れた技術を持っていることはただ単に『凧を揚げる』という以上に重要な意味を持つ。多くの有力者が錬金術師を囲ってその技術を磨くほどだ。

「蓮妃様が仰る郭氏とは、州刺史(しし)の郭様でございますか?」
「ええ、そうよ。ご子息のひとりが内侍省にいるの」
「なるほど」

 天佑から貰った資料から得た知識によると、郭氏は刺史と呼ばれる地方行政を監督する役目を負う職にいる有力貴族だ。刺史は地方の警察や軍事にも多大な影響力を持つので、懇意にする錬金術師がいてもおかしくはない。

「ねえ、菊妃様。よかったら、お茶になさらない? 実家からとても美味しい粉食の菓子が届いているの」

 蓮妃は凧を操る手を止め、ゆらゆらと下に落ちる凧を拾い上げると玲燕を見つめる。

「はい、ご一緒させていただきます」

 玲燕は微笑む。
 菓子は好きだし、玲燕は鬼火事件解決のために色々と情報を集める必要がある。お茶をできるのは願ってもいないことだ。