「菊妃様、見て! こんなに高く!」

 糸を操りながら得意げにしているのは、この殿舎の主である蓮妃その人だ。

「すごいですね。お見事です」

 玲燕は菊妃を褒めるように、手を叩く。

 あの日約束したとおり、玲燕は翌日には蓮妃の住む蓮桂殿に凧の手直しに向かった。
 過度に付けられた飾りを取り去って軽量化を図り、バランスを取るための尾を付けることで華美さを失わないように調整した。また、軸となる竹棒は最低限の本数にし、糸を結びつける位置は左右の端に対称になるようにした。

 一時間ほどかけて手直ししただけで、凧は面白いように飛ぶようになった。その縁で、蓮妃より蓮桂殿に招かれるようになり、今日もご招待いただいたのだ。

「菊妃様はすごいわね。以前、皇城で凧揚げ大会があったのだけど、もし出場したら優勝していたかもしれないわね」
「凧揚げ大会?」
「ええ。どの家門が一番高く、安定して凧を揚げられるか競ったの。郭家が優勝したわ」
「そうなのですか」

 玲燕は相づちを打つ。

(そんな催しがあるのね)